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流星の彼方③

 流達は世界樹から無事に生還し、今日の宿へと向かう。これで今日の予定は終わり。これなら明日はなんとかなるのではないか、なんて少し鼻歌混じりに歩いていた。


「今日、何度も職質されている外国人というのはあなたですね?」


 テリーがお巡りさんに捕まる前までは。


 詳しい話を聞くに、今日の夕刻ごろ、一人の少年(年齢は十代半ばだと推測される。身元はまだわかっていない)が路地裏で何者かに鈍器のようなもの(凶器はまだ見つかっていない)で殴られ倒れていたとのこと。

 発見したのは、その通りに住む少女(名前は伏せられている)。

 犯人は逃亡中で、目撃者が一人いるがまだ話を聞ける状態ではない。

 そして、今日何度も職質されている怪しい男が事件に関与しているのではないか、ということでテリーは捕まったとのこと。


「君はずっとこの男と一緒だったのかい?」


 テリーが捕まったことで流までとばっちりを受け、事情聴取されている。

 このまま上手く行くかもしれないなんて思った罰かもしれない、なんて落ち込んでいる流の耳には優しく問いかけるおっさん(警察官)の声なんて1ミリも届いていなかった。


 テリーは今頃怖い警察の人に殴られたり拷問されたり罵られたりしているのだろうか。そう考えると少し気分が晴れる。ざまぁ。もっとやれ。いっそのこと死刑になってもいいと思う。出会い頭に「俺は昔も悪かったが、今はもっと悪い大人なんだぜ!老若男女問わず殺しちゃう男だしな」なんて言っていたからそれも全部ばれて、今頃死刑が確定しているかもしれない。そうに違いない。死刑バンザイ!

 と思っているのも束の間、バタバタと複数の大人の足音が響く。


「おい!無事か!」


 バァン!と大きな音を立ててドアを開けたのはテリーだった。


「……死刑になったはず、では?」

「勝手に殺すんじゃねぇ」


 何故だかテリーは安心したようにその場に座り込んだ。急に走るから足がつったのだろうか。テリーもいい歳のおっさんなのだから、無茶しない方がいいと思う。すごい息あがっているし、実は運動不足なんじゃないか。適度な運動をすると長生きするらしいから、そのまま衰えていけばいい。


 そんなテリーの横で警察の人達がコソコソと内緒話していた。内容は聞き取れなかったが、話が終わると優し気なウン臭い笑顔で「目撃者の証言が取れて、テリーが犯人ではないことが分かった」ことと「監視カメラの映像から、同時刻にテリーが現場に居なかったことが証明された」ことを説明してくれた。



 警察署を出ると、後から誰かが出てきて警察官に何度も敬礼されていた。振り返ろうとしたらテリーに頭を押さえられ叶わなかったが、様子を窺うようにテリーはその場から離れようとしない。

 困ったように何度も振り返って出てくるその人がテリーと流の前を横切ろうとした。

 流とさほど年の変わらない少女だった。白い肌に後ろでお団子にした艶のある流れるような黒髪、整っているがまだ幼さが残る顔立ち。黒い瞳がテリーを見て真ん丸になる。


「テリー、さん?」

「よっ、久しぶりだな。相変わらず可愛いね、アマネちゃん」


 知り合いのようだ。テリーはこの世界に来たのは初めてだと言った。この世界に来てからずっと傍にいた流が知らないテリーの知り合い。答えは一つだろう。

 流と同じように、テリーと同じように、何かしらの願いを持って神様と契約した人間。つまり、この人もここで神様の仕事をしに来ているということ。

『ネガイビト』。神様は流達のような者をそう呼んでいた。


「私からすると、テリーさんに会ったのはつい1週間前ですよ」


 くすくす、とアマネは笑う。合わせるようにテリーもくくっと笑って見せた。


 聞いた話では仕事で違う時間軸に行くこともあるようなので、知り合いがいたとしても自分よりも未来から来ている可能性もあるし、過去から来ている可能性もあるという。


「アマネちゃんもここでお仕事?」

「はい。テリーさん達とは別件で、先程着いたばかりです。えーとこちらは…?」


 ちらり、とアマネが流を見る。パチリと目が合ってわかった。この少女は流とは全く違う世界の住民だ。今まで綺麗なものしか映したことのないようなどこまでも澄んだ瞳。こんな少女にも神様にしか叶えられないようなネガイを持っているのかと思うと、不思議な気持ちになる。なんというか、黒い物が込み上げてくるような。


「…星宮、流」

「流さん、ですね。私は神本(かみもと) 雨音(あまね)と申します。雨の音と書いて雨音です。気軽に雨音と呼んでください」


 アマネは空中に文字を書くように人差し指を動かして見せる。流の生まれ育った世界の音に似た名前から、同じ世界又は似通った世界から来たのだろうと推測した。


 それでは、とアマネは去って行った。アマネの微笑みはまるで、雨あがりの空から覗く太陽の光のようで、まぶしかった。


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