流星の彼方②
真っ赤な髪をかき上げて少年は立っていた。首に巻いた赤いスカーフが風に踊る。
「ヒーロー見参‼ってな!」
自称ヒーローの少年はニッと八重歯を見せ笑うと、颯爽と駆け出して行った。
向かった先は一人のお婆さん。大きな荷物を抱えて、右手には孫であろう男の子の手を引いている。足取りはふらついており、見ているだけで危なっかしい感じである。
「ばあさん!荷物を貸しな!」
断るお婆さんを無視して、少年は荷物を奪い、ついでに男の子の手も繋ぐ。
「遠慮なんて無用だ!なんたって俺はヒーローだからな!」
そう言いながら目的地まで運び、お婆さんの感謝の言葉にも耳を貸さず、「また誰かがヒーローである俺を呼んでいる!達者でな!」と風のように去って行こうとした。が、
「ありがとう!お兄ちゃんの名前教えてよ!」
少年は男の子の声に反応して、ピタリと止まる。
「よくぞ聞いてくれた!俺はレインボー戦隊の一人!レインボーレッド!正義のヒーローさ‼」
ビシッとポーズまで決めて、少年レインボーレッドはどや顔で叫んだ。虹色なのに赤色とはこれいかに。
「説明しよう!レインボー戦隊は七人で構成されているが、今は全員別行動中なのだ!ブルーはどこかで戦っている。イエローは怪我で入院中。グリーンはクリーンな街を目指して何かしらしているらしい。ピンクは欠員中。バイオレットは行方不明で、ブラックはブルーと同一人物だ。以上!サラダバー!」
謎の説明文を残し、レッドは今度こそ走り去っていった。格好つけたつもりかもしれないが、恰好ついてない。
色々突っ込みどころはあるけれど、レインボー戦隊は実質五人構成のようだ。
「ふっ!また人助けをしてしまったぜ!ヒーローとして当然のことだがな‼」
レッドは誇らしげにニッと笑う。
「で、何の用かな⁉どこかで戦っているはずのレインボーブラック!」
レッドは誰もいない場所へと声をかける。しかし、誰も出てこないし、レッドが覗きに行っても誰もいない。それはそうだ。私はレッドの後ろではなく、上から彼を監視している。それと、勝手にレインボー戦隊とかいうものの仲間にするのはやめてほしい。誰がブラックだ。
「ブルーは恥ずかしがり屋さんだからな!いや、今はブラックだったな!だが!俺たちは仲間だ!恥ずかしがらずに出てくると良い‼」
別に恥ずかしがっている訳ではない。弁解したいが顔を合わせると面倒なことになるのが目に見えているので出て行く訳ないだろう。
ムカつくので意地でも姿を現したくないのだが、今回の仕事は彼らの監視及び手助けだ。人助けと称して仕事をさぼっている同僚に鉄拳を食らわすのも、仕事と言ってもいいだろう。決してムカついたから殴る訳ではない。
「……」
レッドに気が付かれないように足音を消して、ついでに気配も消して背後に忍び込み、その辺に落ちていたバールのようなもので後頭部を殴りつけてやった。なんでこんなものが落ちているのかは…神様がこれで殴れと言っているに違いない。決して自分で落としたのではない。本当だ。
「ぐわぇ!」
と気持ちの悪い声を出しレッドはその場に倒れた。しばらく動かないので、バールのようなもので突いたりしたが、完全に気を失ってしまったようだ。
うむ。これは、やり過ぎた、というやつだろう。
結果オーライ。こいつはいるだけで計画が狂う、トラブルメーカーだ。トラブルどころかもっと厄介なものを量産する害虫みたいなものか。これ以上計画が狂わない内にどこかに監禁しておくのがいい。
おっと、誰か来たようだ。こいつを引きずって歩いているところなど見られれば、私が動きにくくなってしまう。上手いこといけば、あいつは身元不明の外国人として身柄を拘束されるだろう。もしそうなったとしても君の事は忘れない!気が向いたら助けてやろう。気が向いたらな。
影に隠れて様子を見ると、この町の小娘のようだ。大慌てで人を呼び、大騒ぎになる。
犯人捜しが始まり、この辺りをうろついている怪しい外国人では、という話になっていく。特徴を聞くに、テリーの事ではないのか?
おや?これでは計画の弊害を行ったのは私ということになりかねない。これは大変だ。なんとか誤魔化さなければ。私は一芝居打つことにした。