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流星の行方①

 昔、一度だけ話したあの子。あの幸せな時間だけが、ずっと僕を支えてくれていたんだ。

 だから、僕の全てをかけて、あの子の元へ行こう。

 僕の生きる希望だったことを伝えよう。

 あの子はあの日のことなんてもう忘れていると思うけれど、それでもいい。

 それが、僕の生きる意味だから。



 厚い雲が空を覆って、星どころか月の光さえ届かない。

 (ほし)(みや)(りゅう)はそんな空を見て、ホッと息を吐いた。

 星は嫌いだ。星があったからこそあの子に会えたから、無ければいいのに、とまでは思わないが自分を照らす星々は眩しくて上手く見ることが出来なかった。


「うーん。月でも出ていれば『月が綺麗ですね』なんて、ロマンチックにその辺の女の子をナンパ出来たんだけどなぁ」


 そんな流の隣では、チャラチャラした服装をしたそんな感じの男がそんな感じの事を呟いていた。男の本名は知らないが、テリーと自称している。

 そもそも、隣に子供を連れている男がナンパしたとして、ついてくる女がいるのだろうか。


「……」


 突っ込むのも面倒なので流は黙っていることにした。


「あいつほどじゃないが、お前も無口な男だよな」

「……」

「あいつってのは、会ったことないよな?ぶかぶかのコート着込んで、帽子で顔隠してるいけ好かないガキなんだよ。腕はいいんだが、あいつは返事もしない。視線も合わせようともしない。神様には従順なんだろうけど、人間の屑ってやつだな」

「……」


 知らない人の話をされても正直困る。面倒臭いので無視してやったら逆効果だったようで、テリーはニヤニヤしながら流の顔を覗き込んできた。


「なんだ、なんだ?相変わらず不機嫌だな!もしかして、オレに口説いてほしかったのか?こんな少年にまで心を奪わせてしまうオレって罪な男だよな」


 そんな訳ない。もし仮にそんなところをこの辺りの住民に見られたら、またお巡りさんが駆けつけてくるだろうから、やめて欲しい。

 ただでさえ、流は十一歳、テリーは三十前後。どう見ても血の繋がりがない、国籍も違う二人が日没後にウロウロしているのだ。怪し過ぎる。因みに、職質十五回受けている。


「明日は大規模なお祭りの日で、お偉いさんが団体で来るそうだからな。このくらいで済んでラッキーだろ?」

「悪目立ちし過ぎて、失敗しないか、心配」

「大丈夫だって。いざとなったらあのヒーロー気取りが助けてくれるさ」


 ははは、と高笑いするテリーを横目に流はそっと溜息を吐いた。

 そもそも『ヒーロー気取り』というやつのことも知らない。流とテリーの二人でこなすミッションだと思っていたから、もう一人いることも知らなかった。


「今回は、三人?」

「そうだ。普段は一人か二人だから、なんか新鮮だろう?あ、今回が初めてだったな。大体は二人で一か所なんだよ。偶に一人で行かされるけど、お子様は一人で行かされることはないと思うぜ」


 今回は珍しく三人行動、というのは流が初仕事だから特別配慮なのだろう。

 しかし、「初仕事だから比較的に簡単なことにしよう」と言った彼女の言葉は何だったんだろうか。この仕事が簡単なものだとしたら、この先どれほどの無理難題を押し付けられることになるのか。

 そう考えると、流はため息を吐かずにはいられなかった。


 まず、相方に問題がある。テリーがもっとマシな人物であったら、こんな苦労はしなくてもいいのだ。終始ヘラヘラしていて、彼女から聞いたスケジュールの半分もこなせていない。そのせいで、夜空の下で与えられた仕事をする羽目に至っている。俗にいうサービス残業というやつではなかろうか。いくら仕事をしても、こなした役割は一つだけ。


「お。その顔は、ヒーロー気取りの事が信用できてないって顔だな。信用できないよな。あいつが余計なことをすれば、計画の八十%が破綻するからなぁ」


 不安が倍増した。計画の八十%破綻とは、失敗したと言っても過言ではないのでは。

 相方だけでなく、この計画のメンバー全員に問題があるようだ。それは、流を含めて、の話だったりする。


「その時の話を聞かせてやろうか?っと、ここだな」


 流はそんな話聞きたくなかったので、本日のスケジュール最後のミッション地に着いたことに安堵した。

 そこは大きな樹の前。この国の象徴であり、世界中から見えると言われる程大きな樹。世界樹と呼ばれるものだった。


「……」


 感動とは裏腹に、底知れぬプレッシャーで、今頃胃が痛み始めた。

 この計画の成功は全て、流にかかっているのだ。それに…。


 世界樹は観光名所として日中はたくさんの人に開かれている。しかし、夜になると樹を守る警備の者がいて、侵入はほとんど不可能。だから、スケジュールでは入場時間ギリギリくらいに訪れる予定になっていたのだ。

 因みに明日は、お祭りに訪れるお偉いさんたちが貸し切りにしているので、一般人の入場は出来ない。


「よし、行くか」


ニヤリ、と笑うとテリーは軽々と流の体を抱き上げる。


「!!?!」

「お前、軽すぎ。俺はもっと肉付きの良いほうが好みだぞ」


 セクハラされた。余計なお世話だ。

 無駄だとは分かっているが、テリーをテシテシと叩いてやる。全く効いている素振りが見えないので効果は無い様だ。途中で手が疲れたのでやめた。


 しばらく運ばれているが、行く先々に警備のおじさんがいる中、上手いこと見つからないように動いているようで、今のところおじさんにエンカウントはしていない。今の流達にとってはいいことだが、敵には回したくはない。


 こんなのがストーカーになったら、相手の女の子は可哀そうだな。


「ほら、着いたぞ。明日はこの辺から綺麗に見えるようによろしくな」


 あっという間に頂上にある展望台まで辿り着いた。恐ろしテリー。

 明日は、ここでこの国のお姫様と隣国の王子様の婚約式が行われる予定。聞いた話だと、お姫様には王子様の他に想い人がいるそうだが、この国を救う唯一の道が王子と結婚することだからと想いを断ち切ったとのこと。

 見上げると、雲の切れ間から星が見えた。初めて見た星が瞬き、歪む。


「…嫌い。大嫌い」

 悲劇のヒロインぶっているお姫様。

それでいい。失敗なんて許されないから、ずっとその中で悲劇に浸っていて。

 祈るように、呪いをかけるように、流は空へと手を伸ばす。

 これでいい。これで、明日の準備は終わり。

「さよなら、大嫌いなお星様」


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