奴隷冒険者、真面目に仕事を行う。
バーウィッチを出て翌日の昼には隣町であるイバラに到着した。
道中、色々な事があったが訓練の一環としては申し分無い出来事だったと私は思っている。
「開いてる店あって、よかったわー」
しかし、到着したはいいが町は静まり返り、人っ子ひとり出歩いていなかった。
そんな中、1軒だけ開いてる店があり情報収集も兼ねて私たちはその店で昼食をとることにしたのだ。
「魔物騒ぎがあって、ここ2、3日誰も来ないんだよ」
料理を持ってきた店主は閑散とした店内をぐるりと見回し溜息を吐いた。
店主の話によると、1週間程前から町の周辺で魔物が頻繁に目撃されるようになったらしい。
それでも町中で出歩く分には問題ないと住民も気にしていなかったそうだ。
しかし、先日町のすぐそばで住民が襲われ、更に夜中には町の中まで魔物が徘徊する様になったらしい。
…………。
事態は思ったよりも深刻なようだった。
「おっちゃん心配すんなッ。私ら冒険者やから何とかするでッ!」
「そ、それはありがたいが、お仲間は大丈夫か? 酷く疲れてるみたいだが……」
店主は料理に手をつけずテーブルに突っ伏している2人を眺めて、不安そうにそう述べた。
「あ、大丈夫ダイジョーブ」
私は店主に適当な返事を返し、エールを煽った。
***
シャルジュ達がようやく動ける様になったのはイバラに到着した日の夕方だった。
それから私たちは町を離れ、本来の目的を果たす為、調査へ向かう事にしたのだ。
通常の討伐依頼なら魔物の種類とだいたいの数がわかっており、それに応じたランクの冒険者に討伐の依頼が割り当てられる。
しかし、今回の件では不明な点が多い為先行して調査だけを行い、その後それ相応の冒険者に討伐を依頼するという形をとっていたらしい。
「やから、こうやって隠れてんねんな」
「そうですよ。もし危険な魔物だったらヤバイでしょ?」
ジョゼの言う事は最もだ、今回の依頼は正確に情報収集しそれを速やかに報告するだけのものだ。
故に、身を危険に晒す必要は微塵もない、ジョゼの言葉にシャルジュもうんうんと頷いていた。
「せやけど、私ら囲まれてるで?」
「「ぇえッ!?」」
ジョゼ達は気付いていない様だが、私達は既に魔物に囲まれていたのだ。
【カオル式新兵訓練計画】
別名を『死の行進』
後に、傭兵や冒険者、更には騎士団などで採用される事になった訓練方式。
この訓練を乗り越えられた者には、短期間で飛躍的な能力の向上が期待できる。
しかし、この訓練方には脱落者が後を絶たず、あらゆる組織から恐れられている。
その初体験者でもあった者達曰く、「いっそ殺してくれ」と思う程だったらしい。
(『だれでもできるリーダー論』より)




