奴隷冒険者、暇を持て余す。
野次馬たちが少なくなって来たところで、ご主人様(仮)が不機嫌そうに私の元へやって来た。
「ねぇ、カオル。そんな事してないで依頼を受けようよ」
怒ってはいる様だが流石王子様と言うべきだろうか、シャルジュの口調はとても穏やかだった。
「私もそうしたいのは山々やねんけどなー」
私は含みのある言い方でギルド内の掲示板に視線をおくった。
それに釣られて、シャルジュもそちらに視線を移す。
「私らが受けれる依頼がないんやから仕方ないやんッ」
「そうだけど……」
現状を理解しシャルジュは溜息を吐いた。
実はキノコ狩りの依頼以降、私たちは冒険者らしい活動を一切行っていないのだ。
しかし、こうなった経緯には深い事情があった。
***
私たちが冒険者になったのは冬も近い秋の終わり頃だ。
冒険者ギルドは年中新規冒険者を募集している。が、バーウィッチの冒険者ギルドでは春先に駆け出し冒険者が集まるらしい。
それには理由があって……
ダンジョンと呼ばれる魔物が常に溢れている迷宮が近くにある街とは違い、バーウィッチは四季によって依頼の種類が変わる。
春から夏にかけては、低ランクの冒険者向けの採取の依頼が多く舞い込んでくる。
勿論、高ランクの依頼、例えば高ランクの魔物の討伐やそれらが生息する地域での採取依頼なども増える。
しかし、秋から冬、特に冬は食料となる資源自体が激減し、低ランクの冒険者が活動できる範囲にも高ランクの魔物が出現するようになるのだ。
それにより、本来低ランクでも受けれる筈の依頼が中〜高ランクに設定されてしまい、低ランクの依頼が激減してしまう。
故に、この時期に冒険者になる者は少なく、なっても春先まで依頼を受けられず規約によりギルドから一度登録を抹消されてしまうのだ。
***
「まあ、春に登録し直してって事やな〜」
「それじゃあ、その間に僕を鍛えてよッ!」
「おッ♪ やる気やなッ! それじゃ…「失礼するよ」」
シャルジュの提案に私が席を立とうとしたその時、テーブルにフードを被った怪しいの男が現れた。
「力試しをしている女はお前か?」
「そやでー」
「ん?」
フードの男は私の声を聞くなり、驚いた様子でフードから顔を出した。
「その声は……もしかして姐さんですか?」
その男は、私もよく知る人物だった。
「おぉーーッ! ジョゼやんけッ!」
【登場人物紹介(復習)】
【ジョセ】
バーウッチに住むゴロツキ 男 22歳
他の街からやって来た放浪者。
様々な街を渡り歩いてきた事もあり、情報収集や危機管理能力は非常に高い。
カオルの強さに惚れ込み、子分になる。
※鬼騒動までカオルの子分として44話まで登場していた。
 




