エピローグ
『バーウィッチの厄難』
後世にまで語り継がれることとなった、バーウィッチ市街地に突如出現した鬼に関連した災害の総称である。
事の始まりは、ヴィエンヌ商会に突如現れた一匹の鬼だった。その鬼は特殊な形状の金棒を操り、ヴィエンヌ商会の商館を破壊し姿を晦ました。
バーウィッチで流通の要となっていたヴィエンヌ商会の機能不全は、バーウィッチは疎かアステーナ王国の流通基盤そのものの脆弱化の引き金となったようだ。
程なくして、バーウィッチ中央議会は冒険者ギルドに鬼討伐を正式に依頼する事となり、本格的に冒険者が鬼の討伐に乗り出した。しかし、その後一週間余り鬼の目撃情報は一切なく、これが俗に『沈黙の一週間』と謂われる『バーウィッチ市長退任に関する報告書(本誌 P.34)』に関わるこの事例の謎の一つである。
『沈黙の一週間』の翌日、行方を晦ましていた鬼が再び出現し、避難勧告が発令されバーウィッチの市民は全て郊外へと避難、市街地にて鬼討伐作戦が開始された。冒険者ギルドでは鬼討伐の為の討伐隊が既に編成されており、Aランク相当の冒険者13人がその討伐に当たった。(資料 P.12)
そして三日間の激闘の末に鬼の討伐が完遂された。しかしその被害は甚大で、討伐隊の重軽傷者は12名、更にバーウィッチ市街地の三分の一が崩壊する事態となった。アステーナ王国随一とも謂われたの美しい街並みを失った事により、避暑地、観光都市として栄えたバーウィッチは衰退の一歩を辿る事となった。
討伐した鬼は既に消滅しており、詳細は不明、討伐に当たった冒険者からも詳細は語られていない。唯一、鬼が使用していた金棒については、冒険者ギルドに保管されていたが後に何者かによって持ち出され、現在その行方は不明である。この一連の事例に関する鬼の詳細の一切が不明であることが『バーウィッチの厄難』の一番の謎とされている。
現在でも、市街地に鬼が突如出現する事態は王国では起こっていない。そもそも、市街地に突然魔物が出現すること事態が稀であり、この事例はヴィエール侯爵(元バーウィッチ市長)の目に余る所業に神様が天罰をお与になったと考える者が多く、半ば『都市伝説』となっている。
(『アステーナ王国の近代史』より)




