お調子者、傭兵ギルドへ行く!
「両方ともに登録したらアカンのか?」
啀み合っているサノワとアイヴァンに私はふとした疑問を尋ねてみた。
「あー、それはですねー……」
サノワの話によると、傭兵の活動が冒険者の規約に違反するらしい。
傭兵は『対人』の依頼を受け持つのが主な仕事だ。
故に、人を殺めることもあるし、依頼の中には略奪を黙認するものもある。
一方、冒険者は『対魔物』の依頼を受け持つのが主な仕事だ。
人間よりも凶暴な魔物を相手にするのだから、人間なんて容易く殺める事ができる。
それを防ぐ為に、規約で殺人や略奪行為の一切を禁止しているのだ。
「ともかく、酒場で話していても埒が明かないですので、各ギルドにカオル様をお連れして説明するのはどうでしょう?」
二人の遣り取りに痺れを切らしたヴィエールの提案に、サノワとアイヴァンは納得した様子だった。
「ほんじゃ、行こか」
「「「え?」」」
立ち上がった私に、御三方は驚いた様な表情を浮かべた。
…………。
「……私はこれで失礼します。また後日、どちらのギルドに所属するか返答をお伺いに参ります」
今から私がギルドに向かう事になり食事会はお開きとなった。
しかも、酒場の飲食代はヴィエールが払ってくれた。
お会計の時にヴィエールは一瞬固まってたけど、いくらやったんかな?
正規兵を連れてヴィエールが先に帰ると、サノワが意気揚々と私の前にやってきた。
「今日は、傭兵ギルドを見学して行ってよー」
「うむ。今日は遅いので冒険者ギルドは明日参られよ」
サノワが私を誘うとアイヴァンは、どうぞどうぞとサノワに先を譲った。。
まあ十中八九、いい感じに酔ったから今日はもう仕事はしたくないって所だろう。
「それでは先に失礼する」
そして、アイヴァンもフラフラっと一人で帰って行った。
***
「じゃじゃ〜ん! ここが傭兵ギルドです!」
「「「おぉーーッ」」」
サノワが大げさに傭兵ギルドの建物を紹介すると、子分どもはそれに感心して頷いている。
「なんか思ってたのとちゃうなー」
ギルド内は酒場の様な食事処となっており、沢山のテーブルが用意されている。
酒場と少し違うのはその奥に受付があることだ。
しかし、どのテーブルにも誰も座っていない。ギルド内はもぬけの殻だった。
「マスター。戻ってたんですねー。ってあれ? お客さんですかー?」
受付にいた女性がこちらにやって来て、サノワに話しかけている。
何だ、この女。サノワに色目使いやがってッ。
「サノワさん。その人、誰なんですかぁー」
私はサノワの腕にワザとらしく抱き付いて見せた。
すると、彼女は少しムッとした表情で私を睨んだ。
「ああ、モニカ。こちらは『あの』カオルさんだ。カオル、こっちはモニカ。ギルドで受付をやってくれている子だよ」
私はニッコリと彼女に微笑んだ。
しかし、彼女は私の名前を聞くなり、顔を青くしてブルブルと震え始めた。
「え、あ、その……は、はじ、はじめまして……モニカと、もも申します……」
明らかに私に対して怯えている。よく見ると彼女は眼鏡を掛けたいかにも優等生といった感じの女の子だ。
そしてどう見ても、彼女と私は絶対に相入れる事はない人種だ。
「丁度良かったー。モニカ、カオルにギルドを案内してよー。僕は彼女に渡す資料を取ってくるからさー」
「ぇえ!? あ、ちょっと、ま……」
それなのに、サノワはそう言い残すとモニカを置いて受付の奥に姿を消した。
残されたモニカは、絶望に満ちた表情で立ち尽くしていた。
【登場人物紹介】
【モニカ】
バーウィッチ傭兵ギルド職員 女 17歳
バーウィッチに店を構える小さな商家の娘。
計算能力や事務処理が得意だった為、現在のギルドマスターに引き抜かれて働いている。
ギルドマスターに恋する17歳、突然の恋のライバル登場に焦っている。
ダラム談
「大人しそうな見た目と凛とした立ち振る舞い、嫁に貰うなら彼女みたいな娘だな」
ヤヌック談
「三つ編み、眼鏡、巨乳。たまらんッ!」
ジョゼ談
「俺は年下に興味はないッ!」




