チンピラ、調子に乗る。
「それで、偉いさんが集まって、私に何の用なん?」
恐らく、8杯目のエールを注文し終わったところで、私はヴィエールに尋ねてみた。
すると、先程まで料理に夢中だったサノワと、私とエールの飲み比べ状態になっていたアイヴァンはピクリと反応した。
私の問いかけに、ヴィエールは咳払いをすると、ようやく本題を話し始めた。
「カオル様のお力をこの街の為に使って頂けないかと思いまして……」
「貴方様のお力は素晴らしいものだと、ここにいるサノワとアイヴァンも申すのです」
そう言って、ヴィエールはサノワに話を振った。
「正直、君みたいな女の子がルクア傭兵団を壊滅させた事に、今も驚いているよ」
「あ、別にその事で怒ったりはしてないよ、傭兵団同士の抗争なんてよくある事だし。寧ろ、一般市民に手を挙げる傭兵団なんて見逃しちゃいけないよねー」
「そういう意味で、君には傭兵ギルドの顔に泥を塗ったルクア傭兵団を倒してくれて、感謝してるのさ」
以外とサノワは饒舌だったようで、私が相槌を打つ前にグイグイと話し掛けてくる。
「それで、図々しいのは承知で、君に傭兵団を立ち上げて「おい、ちょっと待て」」
グイグイ話を進めるサノワにアイヴァンが割って入ってきた。
「其方の力は人知を超えている節がある。是非とも辣腕を冒険者ギルドで振るっては貰えぬか?」
どうやらアイヴァンは私に冒険者ギルドに入って欲しいらしい。
「あーッ! アイヴァンさん、ずるいですよ! 僕が先にお願いしようと思ったのにー」
「ねぇ、カオル。君にはここにいるチンピラと一緒に傭兵団を立ち上げて欲しいんだ」
「君は不思議と人を惹きつける。見た所、ここにいるチンピラは本当に君の事を慕っているようだし」
「やっぱり君には団長っていう職業が似合ってると思うんだッ!」
二人とも私の事をベタ褒めだ。しかもサノワにさらっと『カオル』って呼ばれてドッキとしてしまった。
二人とも、本気で私の事を『欲しい』と迫って来ているのだ。
ここまで熱心に迫られて、悪い気が起きる女はいないだろう。
「えー。カオル、どーしよっかなー」
取り敢えず考える振りをして様子を見る。
ふと、子分どもの方へ視線を送ると、得体の知れないものを見るような目で私の事を見ていた。
おい! なんちゅー顔しとんねんッ! ちょっと女性らしくしただけやんけッ!
後でコイツらは絞めよう。私はそう決意した。
【登場人物紹介】
【ダラム】
バーウィッチに住むチンピラ 男 18歳
ごく普通の平民の家庭で生まれた5人兄弟の長男。
大柄で強面だが、日雇いの仕事やギルドでも扱わない依頼をして家計を助けている。
カオルの義理堅い人柄に惚れ込み、子分になる。
初めて見るカオルの女の顔に少々困惑している。
【ヤヌック】
バーウィッチに住むチンピラ 男 14歳
バーウィッチで少々有名な商家の一人息子。
幼い頃から親の言う事を聞かず、悪さばかりしていたので、現在は放置されている。
ダラムとは昔からの馴染みで弟分である。
カオルはタイプではないが、抱いてやれない事もないと日々考えている。
初めて見るカオルの表情に、「あ、これもあり」と思っている。
【ジョゼ】
バーウィッチに住むゴロツキ 男 22歳
他の街からやって来た放浪者。
様々な街を渡り歩いてきた事もあり、情報収集や危機管理能力は非常に高い。
カオルの強さに惚れ込み、子分になる。
初めて見るカオルの態度に、もしかすると自分の大将は阿呆なのかもと動揺している。




