チンピラ、眠りから覚める。
「ッたくなんやねん。人が気持ちよー寝とったのにぃ」
なぜか今日は、先払いしていた宿代が終わったから、出て行くか宿代を払えと叩き起こされたのだ。
今まで宿屋の主人にそんな事で起こされたことはないし、確か、宿代はまだ3日分くらい残っていた筈なだ。
グゥーー〜〜ッ。
「そういや腹減ったな。……あ、おっちゃん。串焼き2つッ!」
***
「あ、姐さん! お久しぶりッス」
いつもの酒場に行くと、いつものテーブルにヤヌックが一人座っていた。
「おーっす。ヤヌックは大丈夫やったか?」
私はテーブルに着き、従業員にエールを注文する。
「へぇ、姐さんのお陰で見ての通りなんとも無いです。それより姐さんこそ大丈夫ですかい?」
「ん?」
「いや、あれだけの怪我でしたし、3日も酒場に顔出さなかったから、皆も心配してたんですぜ」
ヤヌックの話を適当に聞き流しながら、カラカラの喉を潤す様にエールを一気に飲み干した後、再び従業員にエールを注文した。
「え、何て?」
「ですから、3日も何してたんですかぃ?」
そう言えば、宿屋の主人も同じ様な事言ってた気がする。
『3日も部屋から出て来ないから死んじまったんじゃないかと思ったよ』
…………ぁ。
「多分、寝てたわ」
私の言葉に、ヤヌックが口をポカンと開けて呆けている。
「って聞いとんか、ボケ!」
私がヤヌックの頭を殴ると、ようやく正気を取り戻したらしく喋り出した。
「マジで、3日も寝てたんですか……」
「やから、めっちゃ喉渇いてるし、腹もめっちゃ減ってるねん」
2杯目のエールの飲み干してから、従業員にありったけの料理とエールを注文した。
『いっぱい食べて元気になってよッ!』
従業員は嬉しそうにそう述べて、厨房へ走って行った。
「そう言えば、姐さんが来ない間、毎日の様に正規兵が酒場を覗きにきてましたぜ」
「はんくぁ、ひっへた?」(何か、言ってた?)
「いや、俺らも最初は警戒してたんですぜ。けれども正規兵、何にもしないんです。だから、俺らもあんまり気にして無かったんですけど、……あ、噂をすれば来ましたぜ」
ヤヌックはそう述べると、視線を店の入り口へ向けた。
すると、彼が言った通り正規兵が入り口から店内をぐるーっと見回していた。
あ、目が合った。
私を目が合った瞬間、正規兵は少し驚く様な仕草をした後、店の入り口から姿を消した。
「なふやへん、ひつへいなはったなー」(何やねん、失礼なやっちゃなー)
【組織情報】
【正規兵】
正式名称を『正規王国警備衛兵』。王国から各都市へ派遣している王国軍兵。
主な活動は街の巡回警備であり、憲兵のように犯罪者や不審者を拘束する事も可能。
各都市の警備組織として、各都市の市長に命令指揮が委託されている。




