流浪人、正義の味方の正体を知る。
助けた少女たちを見送ってから、私たちはコスプレをした変質者と少し話をする事になった。
正直、私としては異世界で遭遇する元の世界の人間にロクな奴が居なかったので早々にこの場を去りたかったのだが……
「マジかッ! それって私でもなれるん?」
カオちーが変質者の話にノリノリなのだ。
…………。
変質者の名前は奥野英二、年齢は32歳。
話し方や紳士的な態度から察するに、ある程度『真面な大人』なのだろう。
異世界に来たのはおよそ1年半前で、最初の半年は一人で困っている人を助けたり、ならず者や魔物を蹴散らしたりしていたらしい。
その過程で王国中で『義賊』と呼ばれている反政府組織にスカウトされ、現在進行形で『世直し』の手伝いをしているそうだ。
「ああ、朝比奈さんや池淵さんが協力してくれれば、実に心強い!」
「やってさ、アイラ! 取り敢えず『おっちゃん』について行こやッ」
…………。
確かに、この国は一見平和で豊かに見えるが、カオちーとの旅で実はそうではない事を知った。
それ故に、変質者の大義名分は理解できたし、彼が植田とは別の人種である事もなんとなくわかる。
しかし、一向にスキルを解除して素顔を見せない事や元の世界での話を避けている所を見ると、やっぱり裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
「やっぱ……「はよ、乗らんと置いてくで!」」
もう少し考えよう。そう私が言わんとすると、勝手に話を進めていた二人が既に出発の準備を終え、乗車を急かした。
「ぇえ!? ちょい待ちー」
慌てて私はサイドカーに飛び乗った。ふと隣を見ると変質者も私たちとは違うバイクに跨っている。
「つか『おっちゃん』もバイク持ってるとか以外やな」
「僕が変身できるのは仮面ラ◯ダーですよ? バイクがセットなのは仕様です」
「それもそーやな」
いつの間にか意気投合した二人は声をあげて笑っていた。
…………。
ブウォンブウォンッ!
そして二台のバイクが唸りを上げて、暗やみの中を走り出したのだった。
***
反王国組織の本拠地に到着した私たちは、奥野に食堂のような場所に案内され、彼が報告を終えて戻って来るのを待った。
カオちーは暇を持て余して、一人でエールを飲み始め、私はもしもの時に備えて臨戦態勢を維持していた。
コンコン。
ドアがノックされ、一人の男性が私たちが待つ部屋へと入ってきた。
「ん? 誰?」
突然やって来た、恰幅の良い眼鏡を掛けた黒髮の男性に私たちは混乱した。
そして、彼も部屋に入って来るなり何も言わず、ただ突っ立っているだけなのだ。
…………。
暫くの沈黙の後、ようやく彼が口を開いた。
「ど、どど、どうも……お、お奥野、です」




