流浪人、窮地に陥る?
『……い……きろ、………おい起きろ』
誰かに声を掛けられ、私は重たい瞼をゆっくりとこじ開けた。
「イタタタ……」
昨日のお酒がまだ残っている様で、目が覚めると共に激しい頭痛が襲ってきた。
「ようやくお目覚めの様ですね、カオル殿」
見知らぬ男性の声が聞こえ、私は身体を起こし声がする方へを振り返った。
すると、鉄格子越しにやはり見た事もない特徴的な前髪をした男性が立っており、その周りには昨晩のお兄さん達が立っていた。
「あ? 誰やねんお前?」
「おっと、これは失礼致しました。私はシラクイラの次期当主のテオドリグと申します。以後お見知り置きを」
全く状況が掴めない私は、一方的に話を続けるテオドリグを他所に辺りを見回した。
昨日は酒場でナンパされて、貴族のお兄さん達と飲んで騒いで、屋敷の一室で寝た筈だった。
しかし、フワフワだったベッドはいつの間にかゴツゴツした石畳に変わっており、まるでここはいつかの地下牢の様だった。
そして、その奥には怯えた様子の女の子が何人か固まって座っており、その近くには未だにアイラが寝息を立てて眠っていた。
「いやはや、カオル殿の方から我が領地にお出でなさるとは光栄であります」
「そう思うんやったら早よ此処から出してや」
私はアイラを起こしながら、前髪に悪態を吐いた。
すると、彼は困った様子で前髪を弄り始めた。
「申し訳ありませんが、『彼女達』の存在を知られた以上、あなた方を此処から出す訳には……」
「あー何? マジ眠いんですけどー……え、何んなのコレ?」
ようやく起きたアイラは辺りを見回し、深く溜息を吐いた。
「あー、また面倒な事に巻き込まれた的なー」
「おッ流石アイラ、察しええやん!」
「あれでしょ、そこの前髪がその親分なんでしょー」
「おい! 私の事言っているのなら訂正しろ! 私はテオドリグ卿であるぞ」
至極面倒臭さそうなアイラに、テオドリグは声を荒げた。
「兎に角だ! あなた方を此処から出す訳には行かないのだ! しばらく此処で……え?」
御託を並べるテオドリグを他所に、私は立ち上がり鉄格子を無理矢理こじ開けた。
「で? どうすんの?」
そして鉄格子の外に出た私は『M4』を取り出し、それを彼等に突き付けた。
***
「おおおおお落ち着いて話をしようではないか!」
「はぁ? そんな事言える立場なんか?」
未だにゴタゴタと煩い前髪に私は地面にM4を1発打ち威嚇した。
「「「ひぃッ」」」
すると、前髪は周りにいたお兄さん共々、腰を抜かし壁際まで後ずさった。
…………。
バーーーーンッ!!!
突然、破裂音と共に天井が破壊されて辺りに砂埃が舞い上がった。
「な、何事だ!」
「なんや新手か?」
混乱する私達を他所に、砂埃の中から1つの影が此方に近づいて来た。
『貴様らの悪事も此処までだッ!』
そう言って砂埃の中から姿を現したのは、日曜日の朝にテレビでよくお見かけする『仮面ラ◯ダー』だった。
…………。
唐突に現れた某ヒーローのコスプレをした人物に、私達は固まった。
そして、コスプレイヤーの方も状況が掴めず、前髪達と私達を交互に見回している。
「加勢するぞ、お嬢さんッ!」
暫くの沈黙の後、ようやく状況が掴めたらしいコスプレヒーローは私の側に駆け寄り前髪達に向かって構えを取る。
「あーそれよりも奥にいる女の子達を助けたってやー」
「ん? そうか、わかった」
そう言って彼は鉄格子の中に居た女の子達を次々と天井に空いた穴から連れ出して行く。
「ぁあ……ああ」
その状況に前髪は情けない声を上げていた。
「さぁ、後は君達だけだ」
「ほな行くかアイラ」
「マジ意味不な状況ー、ちょーウケるー」
私達はコスプレイヤーと共に天井の穴から脱出を試みた。
その光景を前髪はただ呆然と見つめているだけだった。
【登場人物紹介】
【????】
某特撮ヒーローの様な格好をしている人物。
どうやら正義の味方らしく、悪党どもを懲らしめて回っているらしい。
カオル曰くコスプレヒーローらしい……




