女伯爵、の決意。
私は倒れ込む様にベットに突っ伏した。
もう既に夜は深まり、王城も静まり返る時間となっていた。
「明日は昼からエグライド女侯爵様との面会、その後ジェレノー伯爵様、テオドリグ子爵様と面会のご予定が……」
「……わかったから、今日はもう休ませてくれ」
私は突っ伏したままロゼッタに返事をすると、彼女は一礼して部屋を後にした。
…………。
シャルジュの顔を立てて女伯爵としての立場を受け入れていたが、流石に我慢の限界だった。
私は起き上がり、アイテムボックスに隠し持っていた服を取り出しそれに着替える。
そして部屋の窓を開け、私はそこから飛び降りた。
***
警備兵に見つからない様に王城の中を私は静かに走った。
「やっぱ逃げる時は、盗んだバイクで走らんとなッ♪」
魔術士団の研究所に忍び込んだ私は、倉庫に保管されている私以外使用出来ない『魔道具』をこっそりアイテムボックスに収納する。
そして、王城の城壁を飛び越え隣接する森の中で再びそれをアイテムボックスから出した。
…………。
私はバイクに跨り、それを起動させる。
ドコドコドコ……。
どういう仕組みかわからないが、エンジン音は元いた世界のバイクと全く同じだ。
「さて、行きますか」
そう呟き、私はバイクのライトを点灯させた。
…………ッ!
すると、ライトが照らす先にローブを身に纏いフードを深く被った何者が佇んていた。
「カオちー、黙って行っちゃうとか、ちょー寂しいじゃん」
慌てて私は身構えたが、フードの下から顔を出したのはアイラだった。
「なんや、アイラか」
ホッと胸を撫で下ろす私に、アイラはゆっくりと近づいて来た。
「シャルたんには、言ったの?」
「言ってへん。けど、今のシャルジュやったら私がおらんでも大丈夫やろ」
恐らくアイラは私を引き止めに来たのだろう。
そう思った私は、少し警戒しながら彼女の動向を見守った。
「そぉー。カオちーがいいなら、それでいいんじゃない?」
しかし、予想外にもアイラは肩を竦めてそう答えたのだ。
「引き留めへんのか?」
「何で?」
私の問いかけに、アイラは首を傾げた。
「つか、お前何やってんねん」
私を説得する為にやって来たと思ったていたアイラは、先程から何故かサイドカーを色々と物色しているのだ。
そして、少し不満そうな表情を浮かべたと思うと、溜息を吐いてサイドカーに乗り込んで来た。
「カオちー、これ、ちょー座り心地悪いんですけどー」
「だ・か・ら! 何やってるねん!」
「カオちーの逃避行に便乗? 的な?」
真顔でそう答えるアイラに私は頭を抱えた。
「つか、アイラも飽きたってゆーか、カオちーといた方が面白そーだし!」
そう微笑むアイラの瞳に迷いはない。
…………。
一人旅のつもりだったが、まあ2人での旅も悪くないか。
そう思った私はグリップに手を置いた。
「どうなっても知らんで」
ブウォンブウォンッ!
静かな森の中にバイクの音が響き渡った。




