女伯爵、と貴族のお仕事(後編)
「これも貴族であるカオル様の仕事ですッ!」
「嫌やッ! 何で赤の他人と話さなアカンねんッ!」
就寝前、私は自室のベッドに突っ伏して、ロゼッタに猛抗議していた。
「ハンプール辺境伯の御子息であるアルジェフ様が、お忙しい中カオル様とお会いする時間を作って下さったのです。無下に致すなど以ての外です!」
「……ッ! そんなん急に言われても私にも予定があるねん!」
ロゼッタの話は、明日の午後に辺境伯ってゆう偉いさんの坊ちゃんと会えという事らしい。
正直、明日の予定などないが至極面倒くさい話にベットで駄々を捏ねながら嘘を述べた。
「明日のカオル様のご予定は何も無かった筈です」
「あ、あれや、今日シャルジュと約束してん!」
「シャルジュ様はカオル様の前にアルジェフ様との面会予定の筈です」
呆気なく、嘘がバレてロゼッタに睨まれる。
「……はぁ。この面会は以前から決まっていた事なのですよ?」
「はぁ!? 私はそんなん聞いてないでッ」
「言ってませんから」
どうやら明日の面会は以前から決まっていたらしい。
しかも、私に話すと逃げるかもしれないので、ロゼッタはギリギリまで黙っていたらしいのだ。
ぐぬぬ……。
「諦めて下さいませ。今回の面会を見送っても、いずれ女伯爵として何方かとの面会は必ずあるのです」
「…………」
「さあ、腹を括って下さいませ!」
結局、ロゼッタに押し切られ渋々明日の面会を了承したのだった。
***
「お、お初にお目に掛かります。カオル=アサヒナで御座います」
未だ着慣れないドレスの裾を摘み、私は王城にある応接室で待っていた緑髪の男性に挨拶をした。
あーマジで面倒くさい。何で私がこんな事せなアカンねん……
内心でそう思いつつも、偉いさんの坊ちゃんっという事で表情には極力出さないように気をつけてお辞儀をする。
そして、私はゆっくりと顔を上げ坊ちゃんの顔を確認する。
んーやっぱお貴族様はイケメンが多いんやな〜
彼も割と美形な顔をしており、私の好みではないが目の保養には申し分無かった。
…………?
どうかしたのだろう、私が挨拶をしてから坊ちゃんは何も言わずボーッと惚けている。
「あのー。ハン……プール様?」
空覚えの名前を思い出しながら、恐る恐る坊ちゃんに問いかけた。
「あ、ああ。私の事はアルジェフで構わない、カオル殿」
我に返った彼は、取り繕うようにそう述べた。
どうやら名前は間違っていなかったらしい。
「はぃ。アルジェフ……様」
ホッと胸を撫で下ろし私は返事を述べた。
その時、様を付け忘れそうになったのはナイショだ。
…………。
それから私たちは少しばかり言葉を交わした。
アルジェフもベルナベルと同様に帝国軍との話が聞きたかった様で、私は前回の事も踏まえ出来るだけオブラートに包んで話をした。
その際、言葉遣いを気にしすぎた為か所々話がしどろもどろになってしまったが、アルジェフは嬉しそうに話を聞いていた。
「今日はわざわざ時間を取らせてしまって申し訳なかった」
「いえ。こっち……こちらこそ、です」
「もし、いや是非今度は我が領地のトアイトンに遊びに来て欲しい」
「お、お誘いありがとう、ございます……」
…………。
別れ際、アルジェフは何故か急に言葉数が少なくなった。
「アル……ジェフ様?」
私が顔を覗き込む様に尋ねると、彼は勢いよく顔を上げた。
「カオル殿! 我が伴侶となってはくれまいか!」
「……はい?」
「返事はまたお会いする時で良い、それまでに考えてくれ。ではまた!」
そう言って、彼はそそくさと部屋を出て行った。
彼が出て行った後、話を聞いていたロゼッタが私の元にやって来て、未だ話を理解していない私に状況を説明してくれた。




