女伯爵、最新型の魔道馬車を操る!
ベルナベルから婚約の話をされてから数日後、私は王国魔術士団に呼び出された。
「カオちー、おひさーッ」
「久しぶりやな、今まで何しとってん?」
同じ王城の中に居たにも関わらず、晩餐会の夜からアイラには一度も会っていなかった。
話を聞くと、アイラはずっと魔術士団の研究所に入り浸って異界錬金術の研究をしていたらしい。
「貴重な素材とかもあってさー。それでー、テキトーに組み合わせて色々作ってた訳」
そういえばバーウィッチにいた頃も、アイラは暇さえあれば異界錬金術で何かしらのアイテムを作っていた気がする。
「ってか、カオちーは何やってた訳?」
「……お茶会」
その言葉を聞いたアイラが盛大に吹き出した。
「あははっはーッ! マジウケるー、つかありえなくない? カオちーがお茶会って!」
「そこまで笑わんでもええやろ」
腹を抱えて爆笑するアイラに少々イラつきながら、私は彼女を宥めた。
「はぁ。……それでー婚約の話でもされたの?」
すると、ひとしきり笑い終えたアイラが涙を拭いながらそんな事をニヤニヤしながら尋ねてきた。
おそらく本人は冗談のつもりなのだろうが、全くもってそうであるから反応に困る。
…………。
「え? マジ?」
しばらく私が黙って歩いていると、状況を察したアイラが驚きの表情を見せた。
「えー! 誰、誰なの?」
「第一王子」
「マジパないッ! ちょー玉の輿じゃんッ!」
「アイラ、声でかいって! それにまだ決まってへんからな!」
もう既に、魔術士団の研究所の前まで来ているというのにアイラは大声で燥いでいた。
その様子に入り口で見張りをしている警備兵も少々戸惑っている。
『コホン……、カオル殿、アイラ殿、お待ちしておりました』
騒がしくなった研究所の入り口を見に来た、魔術士が扉を開けて騒がしい私たちに挨拶を述べた。
「あ、テオさん! ちーっす」
「どーも」
私たちが各々挨拶を行うと、魔導士はそそくさと私たちを扉の中へ呼び込んだ。
…………。
「今日来て頂いたのは、先日ムラン帝国から送られてきた『魔道具』についてあなた方にお尋ねしたい事がありまして、お呼び立て致しました」
テオドリックという魔術士は研究所の中を歩きながら、今回の経緯を説明した。
話を簡潔に述べると。
ムラン帝国から送られてきた最新鋭の魔道具の使い方が王城の魔術士にはわからないので、転移者である私たちに何かしらのヒントを貰おうと思ったらしい。
「これがその『魔道具』です」
研究所の倉庫に明かりが灯され、件の魔道具が私たちの前に姿を現した。
「ムラン帝国から送られてきた『魔導馬車』なる……」
「マジか! 『バイク』やんけッ!」
私たちの目の前の『魔道具』はどう見ても自動二輪車、所謂バイクだった。
しかも、サイドカー付きの逸品なのだ。
「そーだねー、どーみてもバイクだねーこれ」
「その『ばいく』とは、何なのですか?」
アイラがテオドリックにバイクの説明をしている間に、私は一人バイクに跨がりバイクを起動させた。
ドコドコドコ……。
エンジンが起動する音が聞こえ、私はアクセルグリップを握った。
ブウォンブウォンッ!
エンジンをふかすと、懐かしい音が倉庫の中に響き渡った。
「ど、どうやって動かしたんですか!?」
突然、爆音を上げた魔道具にテオドリックは驚き、音を聞きつけた他の魔術士たちも倉庫へとやってきた。
「教えたるから、これ持って外行こうや」
私は久々のバイクに興奮気味にそう述べた。
***
「ひゃッほーーーーーッ!」
王城の敷地を魔導バイクで走り抜けて行く、勿論バイク自体を見るのが初めての者たちはその形状と音に驚いている。
…………。
とりあえず敷地を一周した後、テオドリック達のいる場所に戻り『魔導バイク』の説明をした。
「えーっと、これがエンジンのボタン、んでこの左足のとこがギアを変えるペダルで、左手のクラッチと一緒に使うねん……」
私の説明を魔術士たちは熱心にメモを取りながら聞いていた。
「つか、なんでカオちーはバイクの乗り方なんて知ってるの?」
「なんでって……乗った事あるからやんけ」
「いやいや、普通はバイクなんて乗った事ないっしょ?」
「そうか? 私らの地域では普通やで?」
私の話にアイラは何故か納得していない様子だった。
…………。
一通りの説明を終えた後、私は乗り方のレクチャーを行った。
実は説明の最中に見物人が増えており、何故かその人達にも魔導バイクの乗り方をレクチャーする羽目になった。
しかし、20人程の魔術士や騎士達が魔導バイクを起動させたのだが、誰一人動かすまでには至らなかったのだ。
結局、私しかまともに動けせない『魔導具』は、お蔵入りという事で研究所の倉庫で大切に保管される事になったらしい。
【アイテム解説】
【魔導式三輪駆動馬車】
カオルが『魔導バイク』と呼ぶ、魔力によって稼働する馬車。
ムラン帝国が魔道工学の粋を結集して開発した、最新鋭の魔道具。
転移者の一人が過去に残した設計図を元に製造された。
稼働エネルギーは運転手の魔力を使用し、走行には膨大な魔力を必要とする。
省エネ設計されていない現時点では馬に乗る方が効率がよいとされている。




