女伯爵、実力を示す?
「はい、次ぃ!」
『うりゃぁああッ』
私の号令に促され、最後の一人になった男性は震えながらも意を決した様子で私に突っ込んでくる。
「甘いッ!」
半ば投げやりに木剣を振るう男性の攻撃を受け流した私は、ガラ空きになった背中に向かって回し蹴りを叩き込んだ。
『うげぇ』
そのまま吹き飛ばされた男性は、訓練場の隅に出来上がった倒された騎士の山の一部に加わった。
その光景を目の当たりにしたヴァレジスは口をあんぐりと開け、思考を停止させている。
そして、シャルジュとジョゼは何とも言えないような表情で私を眺めていた。
「ホンマにアンタらここの騎士か? 弱すぎるでぇ」
「「いやいや、カオル(姐さん)が強すぎるんだよ(ですよ)」」
余りの手応えの無さに私がそう呟くと、シャルジュとジョゼに即座にツッコまれた。
『フハハハハーッ! 流石、お聞きしていた以上の剛腕ですなぁ』
いつの間にか、シャルジュたちの隣で私と騎士達との組み合いを観戦していた男性が大きな笑い声を上げた。
「おっと、失礼致しました。私は王国騎士団、騎士団長のエドルハーツです。シャルジュ様お元気そうで何よりです」
「エドルハーツ、久しぶりだね。ルベルレットは元気? 最近顔を見せないんだけど」
エドルハーツと言う男はルベルレットの名前を聞いた途端、眉間に皺を寄せた。
「あのバカは、溜まっていた書類を片付けるのに追われています」
それを聞いたシャルジュは引き攣った笑顔を浮かべた。
…………。
「き貴様、カオルとか言ったな」
ようやくこちらに戻って来たヴァレジズが私に向かって声を掛ける。
「な、中々の腕前の様だな」
「そりゃどーも。せやけど、騎士達やったらシャルジュでも勝てると思うで?」
「謙遜するのは余り良くないぞ、カオル。シャルジュが騎士達に勝てる訳がないだろう」
ヴァレジズは私の話が冗談に聞こえたのだろう、シャルジュの方を振り返りそう述べた。
すると、シャルジュはムッと頬を膨らませて反論した。
「兄様。僕はこれでもBランク冒険者です!」
「な、何だと!?」
シャルジュの言葉にヴァレジズとエドルハーツは目を丸くして驚いた。
「「その話は、誠か(ですか)?」」
そして、口を揃えてそう述べた彼らは口々に話をし始める。
「Bランク冒険者と言えば、中隊長クラスの実力の持ち主だと我は聞いているぞ」
「私もその様に伺っています」
…………ッ。
「ごちゃごちゃ、言ってないでシャルジュと手合わせしたら分かる話やろ」
シャルジュの話を信じられない二人に、痺れを切らした私はシャルジュに木剣を手渡しそう述べた。
「兄様。是非、お願いします!」
木剣を受け取ったシャルジュは、真っ直ぐにヴァレジズを見詰め、深く頭を下げた。
「いいだろう。弟の成長を確認するのも兄の務めだからな」
そう言って、ヴァレジズは訓練所の中央へ歩みを進めた。
***
「カオル殿。半年の間に、シャルジュ様の身に一体何があったのですか?」
エドルハーツはシャルジュとヴァレジズの手合いを真剣に見詰めながら尋ねてきた。
彼らはもう既に、十分以上も手合いを続けている。
…………。
「んー、特に何もなかったで?」
「何言ってるんですか、姐さんッ!」
心当たりが無かったので私が適当に返事をすると、ジョゼが話に割って入ってきた。
「カオル式新兵訓練計画、やったじゃないですかッ!」
「ぁあー、そんなんやったなー」
ジョゼの話に、そうだったと私は手を打った。
「その、カオルズなんたらは一体何なのですか!?」
「わ、我も、……その話、……詳しく、聞こうでは、……ないかッ!」
シャルジュとの手合いを終えたのだろう、ヴァレジズが肩で息をしながらも話に入ってくる。
二人の食い付き具合が半端なかったので、私は仕方なく、二人にカオル式新兵訓練計画の説明をした。
…………。
話の途中、戻ってきたシャルジュに視線を送ると、ジョゼと何やら話をしていた。
しかし、ジョゼとの話が終わっても何故かシャルジュはこちらには来ず、至極嫌そうな表情でこちらを遠巻きに私を眺めていたのだった。
【登場人物紹介】
【エドルハーツ=アルジェント】
アステーナ王国騎士団、騎士団長 男 41歳
アスティーナ王国騎士団全体を統括している人物。
アスティーナ王国にいる複数いる剣聖の一人。
武術だけでなく、軍略にも長けており指揮官としてもとても優秀な人物である。
最近、一人娘が一緒にお風呂に入ってくれなくなり、少し凹んでいる。




