調査隊、黒幕を取り逃がす。
「うげぇ、カオル=アサヒナじゃん。ボス、アイツの相手してたの?」
見知った顔の少年は私の事を見つけるなり、酷く嫌そうな表情でそう述べた。
「ねぇ。早く行きましょうよ、ボスぅ」
ウエダの手を引く少女は怯えながら私の事を見つめていた。
「ウエダぁ! この子達にも力を使ったのか!?」
「玄、翠……何で……」
その光景を見ていたエリーゼはただ呆然と立ち尽くし、アイラは再び激情し怒鳴っていた。
「失礼ですね、彼らは元々私の仲間ですよ」
そう言ってウエダが玄と翠の頭を撫でると、彼らも嬉しそうに微笑んだ。
…………。
「玄、翠、作戦は失敗しました。長居は無用、撤退しますよ」
「「了か…」」
『待ってくれ!』
ウエダが玄と翠に撤退の旨を述べると、話を聞いていたのであろう偉いさんが慌ててウエダの前までやって来た。
「は、話が違うではないか!」
「はて、何の事でしたかね?」
偉いさんの話にウエダは恍けた様子で返事をする。
「貴様、騙したなッ!」
ウエダの態度に偉いさんは怒り、帝国軍が一斉にウエダ達を取り囲み始めた。
しかし、圧倒的に不利な状況にも関わらず、ウエダは相変わらず薄笑を止めようとしない。
「おやおや、これは不味いですね。……翠?」
…………ッ!
何か物凄くヤバい気がする。
そう感じた私は立ち尽くすエリーゼとジョゼを担ぎ、急いでその場から離れた。
ヴィンセントやアイラも状況を察したのだろう、私の後を追ってくる。
…………。
「何……あれ?」
私に担がれているエリーゼが私達の後ろを指差し、そう呟いた。
振り返ってみると、真っ黒な沼の様なものがゆっくりと広がっており、その沼からは無数の真っ黒な手の様なものが伸びてうねっていた。
そして、帝国軍兵士達は泣き叫びながらその腕から必死に逃げ惑っていのだった。
『た、助けてくれぇええーッ』
『ぅああああああ』
『死にたくない、死にたくないッ』
しかし、彼らの抵抗虚しく一人また一人と手に捕まり、沼の中に引きずり込まれてゆく。
***
私達がシャルジュ達と合流する頃には真っ黒な沼は消失し、それと共に逃げ惑っていた帝国軍もその場から居なくなっていた。
そして彼らの代わりに、私達の目の前には無数の不死者が出現していたのだ。
ゆっくりと私達に近づいてくる不死者達の奥には、ウエダ達が佇んでいる。
「それでは、我々はこれにて失礼します」
「代わりに私のお人形さん達と遊んでねぇ♪」
「じゃあなー」
ウエダはそう言って一礼し、翠と玄はこちらに手を振っていた。
すると、彼らの姿は揺らぎ、徐々に薄くなっている。
「逃げんのか、待てコラァッ!」
私は慌てて彼らを追いかけようとするが、不死者が行く手を阻む。
「どけや、コラぁ!」
私は以前の様に聖なる力を拳に纏わせ、不死者をぶん殴った。
しかし、不死者は吹っ飛ばされただけで消滅しない。
私は仕方なく物理攻撃のみで不死者を蹴散らしていくが、消滅るすことない不死者達はしばらくすると起き上がり再び私の行く手を阻む。
…………。
そして気がついたときには、ウエダ達は姿を消していたのだった。




