611.サトウ・ファミリー(完)
シクロダンジョン協会、会長室。
俺はセルと二人っきりで向き合っていた。
テーブルの上にはいくつかの資料が置かれていて、その一つをセルが真顔で目を通している。
それらはダンジョン・サトリウムの詳細をまとめたもので、ダンジョンが形になってきて、そろそろ稼働しようかという段になったので、セルに報告をしに来た。
俺が持ってきた資料を一通り読んだセルは、満面の笑みで顔を上げた。
「さすがサトウ様、このダンジョン一つで、シクロの他の全てのダンジョンと同程度の経済効果を生み出せそうだ」
「そうか。俺としてはダンジョンに来た冒険者が全員報われればそれでいいと思ってるけど」
「いささか過保護のきらいもあるが――いや、これもサトウ様の無私なる神のごとき愛と思えばなんらおかしくはないな!」
一人で納得して、一人で力説するセル。
俺の持ちあげ方がどんどん進化というか悪化というか、そうなっていってるけど……止めても聞かないような人なのでスルーした。
「ってことは、これで問題ないんだな」
「無論だ!」
「それはよかった。じゃあそれに書いてあるとおり、一週間後にオープンするから、そのスケジュールで頼む」
「わかった。冒険者達に周知しておく」
「それともうひとつ、頼みたい事が」
「なんだろうか?」
俺が改まって、一枚の紙をテーブルに置いて、セルに向かって差し出した。
それを受け取って、目を通すセル。
「このリストも、広めてもらいたい」
セルは一瞬驚き、その後静かにうなずいた。
☆
バナジウムダンジョンの屋敷。
玄関から帰ってきた俺を、エミリーが笑顔で出迎えた。
「ただいま」
「お帰りなのです」
まるで日だまりのような笑顔に、「家に帰ってきた」感が強くして一瞬でほっとした。
「ん、今日はみんないるんだな」
脳内レーダーがそれをキャッチした。
仲間達が全員いて、屋敷のそこかしこに散っている。
「はい、みんなヨーダさんの事を待ってました」
そう話すエミリーは、期待に満ちた眼差しで俺を見つめてきた。
その目は「どうだったんですか?」と強く訴えかけてきている。
「ああ、みんな集めてくれ」
「分かったです!」
エミリーはバタバタと走って行った、俺はゆっくりと、サロンに向かった。
俺に少し遅れて、仲間達が次々とサロンに集まってきた。
セレスト。
アリス。
イヴ。
マーガレット。
エルザ。
イーナ。
さくら。
そして最後にエミリー。
ファミリーの人間組が、全員サロンに集まってきた。
エミリー同様、全員が何かに期待する目で俺を見つめている。
「あー……えっと、セルに許可を得てきた。オッケーだそうだ」
瞬間、皆がそれぞれの形で喜びを表した。
「まっ、そりゃそうだよね」
さくらが比較的冷静な口調で言った。
そんな彼女でも、ほんのりと頬が上気している。
「あれって精霊の一存で決めるって聞いたし、おじさんが聞きに行くのがおかしいって」
「まあ一応な。こんなに大勢に決めるのは前代未聞だし、影響でないわけないしな」
「真面目なんだから」
俺は肩をすくめて、改めて、と皆を見た。
まずはさくら。
「さくらはどっちがいい?」
「あたしは佐藤で」
「そっか」
次にエルザ、イーナ達に問いかける。
「二人はどうなんだ?」
「さ、サトウで」
「私も」
頷き、今度はマーガレットに。
「マーガレットは」
「わたくしもサトウで」
次はアリスの方を向く。
「アリスは?」
「サトウがいいな」
今度はイヴだ。
「イヴは?」
「低レベルのくせに生意気」
そういいながらチョップしつつも、小声でぼそっと「サトウ」といった。
「セレストはどうなんだ?」
「サトウにするわ」
最後にエミリーを向いて。
「エミリー?」
「もちろんサトウにするです!」
なんと、全員が全員そうした。
ダンジョンサトリウム、精霊俺。
その精霊つきをみんなにして、名前を名乗ることができる様にしたら、みんなが一様に「サトウ」を選んだ。
それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり。
「そうか。じゃあみんな……これからもよろしくな」
「「「うん!!!」」」
俺達サトウ・ファミリーは。
この世界で一番強い結びつきを得て。
この先も、更に活躍をしていくのだった。
ここで完結します。
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