610.セクシースリー
朝、窓から射しこむ日差しにゆっくりと起こされた。
バナジウムダンジョンの中だが、人間は朝日とともに起きるのが一番健康的だ――ということで、バナジウムと色々やって、朝になったら窓から疑似的な日差しが射しこむようにした。
その甲斐あって、今日も穏やかに、さわやかに目を覚ますことができた。
「ふわーあ……顔洗いに行こう」
「ど、どうぞ、リョータさん」
「ん……? ああ、ありがとう……」
横からタオルが差し出されたので、おもわず受け取った。
ほどよくぬらされてて絞られてるから、それで顔を拭いた。
すっきりしたとともに、意識が急速に覚醒していき――
「あれ?」
と、不思議に思った。
ここは俺の部屋だ、こんな早朝に、誰がタオルなんかを?
そう不思議がって、横をむいてタオルを差し出した相手をみた。
「んな!」
瞬間、言葉が出ないくらいびっくりした。
「え、エルザ……」
「お、おはようございます、リョータさん……」
おずおずと――というかもじもじとしているエルザ。
彼女は何故か――水着姿だった。
しかも上下のみの、ものすごく露出の高いビキニだった。
「な、何をしてるんだエルザ」
「その……えっと……うっふーん」
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
ものすごい気まずい空気が俺達の間に流れた。
エルザはビキニが最大限映えるような、セクシーポーズをした。
それは体のラインを強調する「クネッ」としたポーズ。
体のラインは問題なく色っぽかったが、エルザ自身照れがあったのか、動きがものすごくぎこちなかった。
そのぎこちない動きが、そのまま二人の間にぎこちない空気を作り出した。
俺は、どう対応したらいいのか分からず、戸惑っていると。
「――ご、ごめんなさい忘れてください!」
エルザは半べそをかいて、脱兎の如く逃げ出した。
「な、なんだったんだ一体……」
エルザのいきなりの奇行に困った俺。
とは言えいつまでもこんなことはしてられないと、俺はベッドから降りて、着替えることにした。
すると――コンコン。
物静かに、かつ控えめな感じで。
部屋のドアがノックされた。
「だれ?」
「おはようございますご主人様、よろしいでしょうか」
「その声はセレスト? いいよ――ってご主人様?」
なんの考えも無しに、反射的に「いい」といった直後にハッと気づく。
しかし、それに深く考える暇もなく、ドアが開いて、セレストが入ってきた。
「――んな!?」
さっきのエルザと同じくらいの驚きが俺を襲った。
現われたのは間違いなくセレストだが、その格好は初めて見る格好だった。
彼女はメイドの格好をしていた。
それもイギリス風の本来のメイドじゃない、アキバ風のセクシーメイドだ。
スカートが短く、胸も強調されている。
あっちこっちの布地が足りなくて、作業には向かないが素肌を見せつけて男を誘惑・悩殺するのに特化したタイプのメイド服だ。
「な、なななな」
「おはようございます、ご主人様。朝食をお持ちしました」
慌てるおれとは裏腹に、メイドセレストは実に落ち着いた様子で、ワゴンを押して部屋の中に入ってきた。
ワゴンの上には料理――朝食が載っている。
「恐れ入りますご主人様、朝はコーヒーと紅茶、どちらがよろしかったでしょうか」
「え? あ、ああ……じゃあコーヒーで」
格好と意図はともかく、照れもなくて普通にメイドとしての職務をこなそうとするセレスト。
さっきもそうだが、相手に照れがあればこっちも照れるし、まともにやってたらこっちもつられてまともに受け答えしてしまう。
そのまともさが俺の疑問を封殺するような形で、メイドセレストはワゴンの上でコーヒーを淹れた。
そしてそれをティーカップにそそいで、俺に渡そうとする。
「どうぞ、ご主人様」
セレストがティーカップを差し出した――その時。
メイド服がワゴンに引っかかって――ドンガラガッシャン!
盛大に躓いて、セレストはすっころんだ。
「あいたたた……」
「だ、大丈夫か?」
「はい……大丈夫です……あっ」
「ん? ……あっ」
俺が手をかそうとした瞬間、二人同時に気づいた。
すっころんで、コーヒーをかぶってしまったセレスト。
それでメイド服が濡れて、ただでさえ露出がおおかったのが、更に透けて色々見えるようになった。
「――っ!」
それに気づいたセレストは顔を真っ赤にして、濡れた胸元を押さえて、脱兎の如く逃げ出した。
「えっと……」
とりあえず……片付けるか。
なにも考えない方がいい、そう思った俺は、セレストがちらかしていったワゴンを片付けることにした。
「低レベル、いる?」
すると――三度仲間が現われる。
脳裏に色々駆け巡った。
ビキニのエルザ、セクシーメイドのメイドセレスト。
そして――イヴ。
まさかイヴも? と思っておそるおそる振り向くと――。
「いつもの格好かい!」
イヴは、自前のウサミミに、バニースーツの格好をしていた。
「セクシー?」
「いやセクシーだけど!」
何かがずれてるイヴに、俺は肩透かしを食らわされた気分で、盛大に突っ込むのだった。




