605.強制お休み
昼下がりのサロン、俺は一人ぼけーっとしていた。
今日は休みの日にした。
昨日、サトニウム(仮)で色々やってたら、エミリーが迎えにきた。
さくらのアドバイスで、ガイドムービーはマーガレットにやってもらった方がいい、といってきた。
さくらのアドバイスは理にかなったものだった。
能力的にも、人気的にも、マーガレットにやってもらった方がいいのは確かだ。
そのアドバイスはまったく妥当だ。
一方で、エミリーの表情にちょっとこまった。
迎えにきた彼女の表情は、俺を止める理由ができた、という安堵したものだった。
それを見た瞬間、俺は「またやってしまった」と察した。
気を抜くといつも、何もかもが見えなくなってがむしゃらにやってしまう。
バナジウムの時に怒られたばっかりだというのに、結局それは治ってなかった。
だから今日はあえて休むことにした。
休めるときは休むぞ、とエミリー達にアピールするためだ。
「……暇だ」
暇すぎて、どうにかなりそうだった。
朝食を終えたばかりで、みんながダンジョンに出かけて間もない。
まだまだ午前中という時間帯だ。
なのに、もう暇すぎて苦痛になってきている。
やることが無いのは本当にしんどい。
「モンスターの種類でも考えておくか」
「低レベルちょっぷ」
「いたっ」
つぶやいた直後、おでこを叩かれた。
何事かと思ってみると、おれの前にイヴがいた。
彼女はパジャマに使っている、ウサギの着ぐるみ姿で俺を叩いた。
「な、なにするんだいきなり」
「高レベルからの頼み」
「さくらから?」
「低レベルが生意気したら殺す気で叩くように、って頼まれた」
「いやいやいやいや」
生意気って。
「ちょっとサトニウムのモンスターを考えようって思っただけだぞ」
「それが生意気」
「生意気なのかそれは」
「うん、生意気」
「えっと……」
イヴは俺をじっと見つめている。
着ぐるみの右腕は上がったままで、手刀の形に指を揃えている。
物静かだが、殺る気だイヴは。
「さくらにはお見通しってわけか」
俺が暇を持て余して、また仕事モードに入ろうとするのを。
「高レベルだから当たり前」
「当たり前なのか?」
「そう」
「根拠は?」
「高レベルのレベル、300を越えた。今世界一」
「ふぇっ!? そんなに上がってたのかさくら」
最後に見たときは100ちょっとだった様な気がするけど。
「高レベルの言うことはいつも正しい」
「それはそれでどうかと思うけど」
イヴが根拠にするそれはともかくとして、さくらのレベルが300を越えてたことに驚いた。
彼女のレベル上限は∞だから、300まで上がってても何もおかしくはないけど、それにしてもすごい。
上限∞と、延々と周回を繰り返すとそうなるのか。
「……余剰経験値も何か還元させればいいかもしれ――いたっ」
「低レベルのくせに生意気だ」
本日二発目の、イヴのチョップをもらってしまった。
「いや、ちょっとくらいいいだろ?」
「ダメ、ウサギは監視をまかされたから、ちゃんとやる」
「そこまで厳しくしなくてもいいのに」
俺は苦笑いした。
どうやら今日は、何が何でも仕事っぽいことをさせてくれないようだ。
イヴは仲間の中で一番「自分」がはっきりしている。
彼女が一度決めたことは絶対に曲がらない。
つまり今日はもう、仕事に関連することはもう何もできないって事か。
「……暇だ」
つぶやく俺、仕事じゃなくて他に出来る事は、って考えてみたが――なにも思いつかなかった。
結局、この日はみんなが帰ってくるまでぼうっとし続けた。
時間がものすごくゆったりと過ぎて、一日が通常の三倍近く長かったような、そんな錯覚を覚えたのだった。




