601.社畜の経験
「私達がいま思いつくのはこんな感じかな」
色々と意見をもらった後、イーナがそう言った。
隣に座るエルザも、たくさん意見を絞り出してくれたからか、口では言わないが顔に疲労の色が見え隠れしている。
「そうか、ありがとう」
「あっ、あした店にでたら、他の冒険者からも聞いてみますね」
「ありがとうエルザ。たのんだよ」
「はい! 任せて下さい!」
エルザは意気込んで返事をした。
意気込んではいるが、疲れていることに変わりは無い。
これ以上はよくないと、俺は話を切り上げて、二人とわかれた。
そのまま部屋には戻らず、屋敷の転送部屋を使って、新しいダンジョン――サトニウムにとんだ。
人っ子一人いない、静かなダンジョンの中。
というよりは、休日の会社の中。
この世界に飛ばされる前のサラリーマン時代は、よくこんな風に静まりかえったオフィスで仕事をしたもんだ。
「おっと、こんなに静かじゃなかったっけな」
俺はクスッと笑いながら、ダンジョンに「念じた」。
するとどこからともなく、空気の流れる音がした。
エアコンの音だ。
休日出勤で一人っきりの会社では、自分以外の音はこのエアコンの音だけだ。
その音を聞いていると……かなしいけど妙に落ち着く。
「ダンジョンの精霊かぁ」
一通り話が形になりかけてきたからか、俺は感慨深くそうつぶやいた。
ちょっと前まではそんなこと考えられもしなかったのに、今では当たり前のように感じてて、話を進めようとしている。
我ながら不思議だなあ……と思いつつ、モンスターを出して行く。
エミリー。
セレスト。
アリス。
イヴ。
さくら。
マーガレット。
仲間で、冒険者組である、彼女達の姿と同じモンスターを出した。
彼女達が日替わりでダンジョンマスターになったらちょっと面白そうだなぁ、と思った。
そうして彼女達との日々を思い出す。
「本物は無理だけど、この彼女達ならいくらでもステータス盛れそうだな」
MPがS、知性もSのエミリーとか、それはそれで面白いんじゃないかってちょっと思った。
ふと、俺はある事をひらめいた。
彼女達のステータスを盛る、という所からの連想。
旧ニホニウムの、ステータスをあげるあの種。俺のステータスをとことん盛っていったあの種だ。
いや、あの性質だ。
あの種は俺にしか手に取ることはできなかった。
だから誰にも渡せなかった――横取りされる事は無かった。
今まで、この世界で数多くのブラックパーティーにであい、その都度懲らしめていった。
その時その時の改善案を、精霊に掛け合ってダンジョンをかえてもらってきた。
今は、俺がこのダンジョンの精霊だ。
ドロップとかよりもモンスターがどうのこうのよりも。
まずはそこなんじゃないか、って思った。
そのための、横取りされないシステム。
「倒した相手にしか取れない、換金するまで別の人間には取られない」
そういう風にするにはどうしたらいいのかを考えた。
「ああ、そうだ。体力が一定以下は入場禁止だ」
連徹とか、そういうのは出来ない様にしよう。
そうやって、俺は俺で、ブラック企業勤めの経験から、色々と案を練った。
新しいダンジョンはそういうものにさせないために、色々と考えていった。




