599.システムアップデート
夕方、帰宅してきたセレストを捕まえて、サロンで話をした。
サトニウム(仮)のドロップ品を、他のダンジョンの攻略を効果的にするものにしたい、っていうことをまず説明した。
「それは……すごいわね。もし本当なら世界中から冒険者が集まってくるわ」
「ああ」
俺は深く頷いた。
世界中から冒険者が集まってくるというのは、それだけ需要が高いということだ。
需要が高く、冒険者達にアイテムが行き渡る事ができればそれに越したことはない。
「だから、セレストにちょっと協力をして欲しいんだ」
「私に? 何かリョータさんの力になれることがあるのかしら」
「セレストはうちで一番ダンジョンとモンスターの知識が深いからね」
最初はそうでもなかったが、仲間になってからは、彼女は魔法だけじゃなく、ダンジョンの知識もものすごい勢いで増やしていった。
今となっては軽く図書館レベル――いや歩くウ○キペデ○アって感じでものすごく博識だ。
「セレストなら、『こういうものがあれば攻略の助けになる』、っていうのが分かるんじゃないかなって」
「なるほど、そういうこと」
セレストは静かにうなずいた。
「そういうことなら、協力させてもらうわ」
「本当か!? ありがとうセレスト」
俺は嬉しくて、ついセレストの手を取って上下にブンブン振り回した。
「それじゃ早速で悪いけど、何かぱっと思いつくものは?」
俺はあらかじめ用意していた、紙とペンを取り出して、食い気味でセレストに聞いた。
「まずはなんと言っても、ドロップのステータスね」
「ドロップステータス?」
「例えばなんだけど、植物と動物がともにCくらいで、他のが全部Fだったとするじゃない?」
「ああ」
「その人は当然、植物か動物のダンジョンにいく」
「まあそうなるな」
「でも、大抵の場合一つのダンジョン、というか一つのフロアに必要なドロップのステータスは一つだけ。だからどんな冒険者でも、ダンジョンを通ってるその瞬間は、何かドロップのステータスを……そうね、遊ばせてるって事になる」
「なるほど」
セレストの言いたい事はよく分かる。
「そこで――もし余ってるステータスが必要な方に寄せてあげることができたらいいな……って思うの」
「分かった、試してみるよ! 他にはなにかない?」
「モンスターのHPが見られるようになると助かるわね。瀕死かもしれないモンスターに、安全をとって大技で確実に倒すこと、よくあるから」
「なるほど、HPか。うんそれは見られると確かにいい。他は?」
「ドロップしたものを他人に取られなくするのかな? 私はないけど、それで揉める人、ちょくちょくいるから」
「ああ、それも大事だな。作れるかやってみる。他には?」
俺はセレストから意見を次々と求めた。
ある意味、俺じゃなくセレストにしか出来ない事だ。
俺も、ダンジョンの攻略にはできるだけパワープレイじゃなくて、テクニカルにするようにしてきた。
それでも、結局の所は高いステ――オールSS前提の攻略になっている事が多い。
本当の意味で攻略に困ったことが、俺はほとんどない。
唯一本当に困ったのは、真・ニホニウムの座敷童とレイド戦だけだ。
レイド戦は解決法をまだ思いついてないけど、座敷童はモンスターの見た目を変えるアバター的な物で解決できると考えている。
そんな風に俺じゃあまり思いつかないから、セレストに色々聞いている。
さすがファミリー一の知恵袋。
あっという間に、セレストは100近い困るパターンと、それに対するあったら嬉しい的な解決策をひねり出した。
「あとは……そうね、エルザとイーナ達にも話を持ちかけた方がいいかもしれないわね」
「エルザとイーナ?」
「そう、彼女達は店を開いているでしょ? 現場の冒険者からもっと様々な、生の声を聞けるんじゃないかしら」
「ああ、なるほど!」
セレストのいうとおりだと思った。
店を開いている者が、顧客から情報を引っ張るのなんて常套手段だ。
青と黄色のカードでたまるポイントも、実際の所消費者情報とポイントの交換なんだから。
「そうだよな、せっかく商人が仲間内にいるのに、それを活用しないのはもったいないよな」
「ええ、そう思うわ」
「よし、じゃあ聞いてくる。ありがとうセレスト、すごく助かった」
「……どういたしまして」
セレストは何故か、頬を染めて俺を見送った。




