598.特質
「ところで、ここのドロップは何になるの?」
モンスターを次々と作っていってると、ふとさくらが思い出した様にそんなことを聞いてきた。
「……さあ」
「さあって」
「いや実はさ」
俺はこの階に設定した、新入社員を呼び出した。
ピカピカのスーツに、希望にあふれた瞳。
この瞳が暗黒面に落ちるまで何年もつかな――っていうサラリーマン時代に思っていた事をコンセプトに作ったモンスターだ。
そのピカピカの一年生社員を、通常弾で脳天をぶち抜く。
新入社員は後ろ向きにたおれる。
「うわお、えっぐーい」
「しょうがないだろ。それよりも」
俺は苦笑いしつつ、よくみて、とさくらにジェスチャーで伝えた。
さくらは言われた通り新入社員をじっと見つめた。
見つめられる中、新入社員はポン、と弾けて消えた。
消えた場所には――何もなかった。
「ありゃ、ドロップ無しなの? おじさんでも」
「そう、俺でも」
俺ははっきりと頷いた。
転移してきたこの世界で俺に与えられた能力は全ドロップS。
この能力は、全てのモンスターが全てのタイミングで、倒せば必ずドロップするという能力だ。
それ故に、さくらはドロップしない事に驚いた。
「なんでしないの?」
「それが分からないんだよ。一応、こういうのドロップして――って感じで、モンスターを作るのと同じように念じて設定しようとしてるんだけど、今のところ上手くいってない」
「へえ、それじゃ昔のニホニウムさんと同じになっちゃうのかな」
「いや、あの時も、俺なら各種ステータスの種をドロップさせられたんだから」
「そか、そういえばそだね」
「だからまあ……まだ設定ができてないだけなんだと思う」
「そうなの?」
「さくらがそれを聞き返すか?」
俺は微苦笑した。
「俺の特性で、報われないダンジョンになることはない――っていうのは、精霊っぽくなってるって最初に指摘したさくらが一番わかってることだろ?」
「それもそっか」
そう、ここが本当に俺のダンジョンなら、今はともかく、オープンするまでにドロップ無しでいることはあり得ない。
俺が望むことは、「頑張った人が頑張った分だけ確実に報われる」ことだから。
この世界で、ダンジョンに入って、危険な思いをしてモンスターを倒したのにドロップはない。
そんなの一番あり得ない事態だ。
「じゃあそのうちできるようになるのかな」
「俺はそう思ってる」
なんだったら、そうならなかったらここをぶっ壊す位の覚悟でいる。
ドロップしないダンジョンなんてあり得ない、俺の物ならなおのことだ。
「そかそか。ちなみにおじさんは何をドロップするようにイメージしてた?」
「いろいろだな」
「色々?」
「なんというか、コンビニ、って感じかな」
「コンビニ」
「独り身の男には、コンビニはライフラインそのものだからな」
「へえー、コンビニか。じゃあエロ本とかもあるの?」
「なんで君はいつもそっち方向にいっちゃうの!?」
さくらのボケに、声を裏返るほどの勢いで突っ込んだ。
「あはは。でもコンビニか……あっ」
さくらは何かを思いついたかのように手を叩いた。
「なに? どうかしたの?」
「おじさんのダンジョンでドロップしてそうな物を思いついた」
「どんなの?」
「特殊アイテム」
「特殊アイテム?」
「というか、他のダンジョンを攻略するためのアイテム?」
「……」
他のダンジョンを攻略するための……?
「ほら、おじさんが自分のダンジョンをいくらやっても、他のダンジョンに行ってる人はこう、報われない人がでるじゃん?」
「ああ」
「それをフォローするためのアイテムがおじさんのダンジョンでドロップするって事」
「――っ!」
俺はハッとして、一つ強くイメージして、それから再び新入り社員を呼び出した。
ピカピカの一年生社員を、さっきと同じようにヘッドショットで倒す。
すると――ドロップした。
「これは……雨ガッパ?」
「ああ、こういう形になったか」
「なんのためのアイテム?」
「魔力嵐を――レジスト、かな。そうするためのアイテム。多分いける」
俺は説明しつつ、確信していた。
これは、魔力嵐に抵抗出来るアイテム――装備なのだと。
「マジで? それ本当ならおじさんすごいよ」
スケッチブックからの召喚は「ジェネシス」という魔法に頼りっきりのさくらは、魔力嵐に対抗出来るアイテムに興奮していた。




