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594/611

594.最強のダンジョンマスター

 自分でもはっきりと分かる位に、俺は困惑していた。


 ダンジョンマスター・エミリー。


 そう呼ぶしかない存在に、俺は困惑していた。


 それとは対照的に、ネプチューンは実に楽しげな感じで笑った。


「いやはや、彼女がダンジョンマスターか。やっかいなことこの上ないね」

「そうおもうか?」

「強いからね、なんてたって三つ星冒険者――ああでも、ダンジョンマスターだと本人と能力が違うって事もあるのかな?」

「ああ……それもそっか」


 見た目がエミリーだからといって、能力までもがエミリーとまったく同じだとは決まってない。


 事務のお局様とかも、ちゃんとモンスターっぽい能力だったしな。


「どういう能力なのかな」

「それはさすがにここじゃためせないな」


 俺は苦笑いしつつ、ダンジョンマスター・エミリーを消した。


 エミリーと能力が一緒にしろ違うにしろ、ダンジョンマスターだ。

 こんな酒場の個室で暴れさせて良いはずがない。


     ☆


 俺は一人で、あの安アパートに戻ってきた。

 アパートに入って、再びダンジョンへ――サトニウム(仮)に戻った。


 ちなみに一人なのは、この段階でまだ他の誰もいれたくないからだ。


 新しいダンジョンだから危険があるかも知れないし――場所が場所だし。


 だから俺はネプチューン達に別れを告げて、一人でここに戻ってきた。


 階段を降りて、エレベータホールの辺りで、再びダンジョンマスターを呼び出す。

 ダンジョンの中にいると、より一層強く感じるダンジョンマスターが放つ威圧感とその空気。


 天使の様な笑みをたたえたエミリーが、まるで魔王のごときオーラと威圧感を放っていた。


「Gがいるわけでもないのにな」


 俺は思わず苦笑いした。

 今のエミリーは、ああいう(、、、、)時のエミリーを彷彿とさせている。


「さて……やるか」


 俺は距離を取ってから、ダンジョンマスターに「GO」サインをだした。

 瞬間、ダンジョンマスター・エミリーが肉薄してくる。


 ハンマーを軽々と持ち上げ、跳躍しつつハンマーを振りかぶってきた。


 俺はさっと真横にとんだ。

 勢いはすごいが、直線的なハンマーの振りおろしを楽にかわした。


 ――と、思ったのだが。


「うわっ!」


 思わず声がでた。


 エミリーのハンマーが地面を叩いた瞬間、妙な引力が俺の体を引っ張った。

 まるで磁石に吸い寄せられるかのごとく、ハンマーに吸い寄せられていった。


 身動きがままならない中――ガツン!


 ダンジョンマスター・エミリーのハンマーが、横向きにフルスイングして俺を吹っ飛ばした。


「いてて……」


 とっさに両腕をクロスさせてガードするも、ガードを貫通して骨の髄まで響く痛みだ。


 そのまま空中でぐるっと半回転して、体勢を整えて着地――するとダンジョンマスター・エミリーはもう目の前に迫っていた。


「楽させてくれないのか!」


 ほとんど気を抜いていないのに、ハンマーは容赦なく目の前に迫っていた。


 今度は対処出来た。

 ガードしつつ、その勢いを利用して、さっき以上の速度で飛んで距離を取る。


 そして着地する前から二丁拳銃を抜いて、弾丸もこめる。


 ダンジョンマスター・エミリーはもう突進を始めていた。

 着地するとまた狩られる(、、、、)から、空中で牽制用に通常弾をばらまくことにした。


「――っ!」


 引き金を引けなかった。


 とっさに目に入ったのが、いつものエミリーの美しい顔だった。

 一番最初の仲間、ファミリーの大事な人。

 そんなエミリーと本気で戦おうだなんて思った事は一度もない。

 とうぜん、こんな風に銃口を向けたこともだ。


 だから引き金を引こうとした瞬間、手が固まって止まってしまったのだ。


 俺は引き金を引けなかったが、ダンジョンマスター・エミリーはそういう感情とは無縁の存在だった。


 彼女はすぐに目の前に迫ってきて、ハンマーを振り下ろした。


 まだ腕をクロスさせてガードするが、体勢が悪かった。

 吹っ飛ばされるんじゃなく、地面に打ち付けられるようなハンマーの軌道。

 それでガードはしたが動きが止められた。


 それを逃さず、ぐるっと縦に一回転して、その勢いのままハンマーを更に振り下ろしてきた。


 まずい! エミリーの得意技だ。

 足が止まった状態でこれを受けるのは非常に危険だ。


 俺はとっさに、加速弾を自分に撃った。

 エミリーの見た目をしたダンジョンマスターには撃てなかったが、自分に注射の様に加速弾を撃ち込むのは訳もなかった。


 加速した世界に入り、エミリーのハンマーを避けた。

 さすがのダンジョンマスター・エミリーも、加速弾をうった俺の動きにはついて来れない。


 俺は悠々とその死角に潜り込んで、銃口を突きつける――が。


「だめだ、やっぱり撃てない」


 俺は苦笑いして、拳銃を下ろした。

 そしてそのまま、ダンジョンマスター・エミリーを「消した」。


 引き金は引けなかったが、消すことは出来た。


「しかし……うん、強かったなあ」


 ダンジョンマスター・エミリーへの素直な感想、それはシンプルに「強かった」の一言だ。


 本物のエミリーを彷彿とさせる強さだった。

 動きもそっくりだし、攻撃力も――普段受けてないから想像だけど、ほとんどエミリーのままだ。


 そして、エミリーにそっくりな見た目が、反撃できなくさせた。


「これって……普通の冒険者もそうなるんじゃないのか?」


 俺は微苦笑しつつ、そう思った。


 今や、エミリーも有名人だ。

 エミリーモデルのハンマーが同じタイプのパワーファイターの間で愛用されてて、エミリーは教祖というか、アイドルというか、そういう感じのポジションに収まっている。


 ファンがものすごく多いって事だ。


 そのエミリーの見た目をした、ダンジョンマスター。


「……もしかして、ダンジョンマスターの中でも最強……なんじゃないのか?」


 俺は冗談抜きでそう思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定的矛盾も甚だしいねぇ。
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