591.亮太の理想
サトニウム。
最初にそれがでたのは、クレイマンたちユニークモンスターが住む街だった。
モンスターたちが住みやすいように、俺が金を出して、地上にダンジョンじゃないがダンジョンっぽい建造物を作らせた。
そのダンジョンっぽい建物の中に住む大勢のモンスターたち。
その光景と、主人(飼い主)である俺の名前をとって、誰かが「サトニウム」と呼び出して、それが定着した。
佐藤亮太が主のダンジョン、サトニウム。
「いやいやいやいや……」
俺は苦笑いして、こめかみを押さえた。
まさかのまさかだ。
クレイマンたちが住むそこをサトニウムと呼ぶことは別にいい。
ダンジョンの外に出たモンスター、ハグレモノが人間の社会に交じって生活するには「飼い主」がいる。
サトニウムは、そこにいるモンスターが全員俺に「飼われている」と主張するのに格好の存在だった。
だから、それはいい。
だけど、これはちょっと……。
「ええ……俺、精霊になっちゃうってこと?」
さすがにこの展開は予想していなかった。
だが――。
「お茶くみの女子社員――見た事ないけど作れるもんなんだ」
俺は苦笑いした。
ゾンビ社員のあと、再イメージしてお茶くみの女子社員を作り出した。
会社の制服を纏って、お盆に湯気立つ湯飲みを乗せている。
昨今、社会的にうるさくなって、ガチブラックな俺がいた会社でも、そういうのはなくなっていた。
だから完全に想像上の生き物、空想の産物だが、俺がイメージした通りの女子社員が現われた。
そしてそれは、モンスターとして、俺の脳内マップに光点で見えている。
もう、間違いない。
俺のイメージ通りに作り出せる。
ここは――俺のダンジョンだ。
そうと分かれば――俺は銃をしまって、イメージする。
ダンジョンの見た目はちょっと変えてみようと思った。
オフィスじゃなくて、もっと他のロケーションにしてみようと、イメージをしてみた。
が。
「あれ?」
ダンジョンの見た目は変わらなかった。
俺が現われた時のオフィスのまま、変わる気配さえまったくしない。
「ダンジョンは変えられないのか?」
そう思い、もう一度イメージしてみた。
今度はすぐに変わった。
平社員が放り込まれる大部屋のオフィスから、赤絨毯を敷き詰めた社長室になった。
「えっと……」
更にイメージを変えると、またまた光景が変わった。
いかにもな社長室から、今度はテレビでしか見たことない、どう考えても効率が下がるとしか思えないフリーアドレスなオフィスにした。
このイメージもすぐに変わった。
さらにイメージ。
今度は離れすぎない――サラリーマンとかが接待で行くキャバクラをイメージしてみた。
が、変わらない。
「……」
更にイメージ、今度はこじんまりとした、取引先でいった個人事務所を記憶から掘り起こす。
三人くらいしか社員がいなくて、六畳くらいの部屋に机が三つとコピー機とかOA機器を詰め込んだ狭いオフィス。
それはすぐに変わった。
「なるほど……オフィス限定ってことか。って、ことは」
今度はモンスターのイメージをした。
いろいろやると、オフィスと同じだった。
社長っぽいのは出せた、堅物そうだけど裏でいけない事をしてそうな美人秘書も出せた。
掃除のおっちゃんとかも出せたけど、野球選手とか芸能人とか、そういうのは出せなかった。
モンスターも、人型かつ「オフィスにいてもおかしくない」のしか出せない。
なるほど、これが「サトニウム」にかけられてる制限って訳か。
「なんというか、まあ……」
俺は苦笑いした。
オフィス制限というか、縛りというか。
それのおかげで、俺はますます、ここが「サトニウム」であると強く実感させられてしまった。
とても複雑な心境だ。
まさかこんな展開になるなんて思ってなかった。
いきなりすぎる展開に、状況は理解したけど、受け入れられたとは到底言えないような状況だった。
「とりあえず一回帰るか」
こういう時は帰って、休めるなら休んで、相談できるなら仲間達に相談してみよう。
自分で変に考え続けても、あまりよくないと思った。
まさかここから出られないって事はないよな……と思いつつ、俺はさっきの階段に向かった。
一回は上の階に出たが、エレベータとダンジョンの事を理解して降りてきたあの階段に再び向かって、上に上がっていく。
今度はとりあえず一番上か一番下までいって、まずはこのダンジョンからでよう。
しかし、俺のダンジョンか……。
もし俺が精霊みたい――というか精霊になったら、どういう「こだわり」を持つんだろうな。
「……あ」
階段を上る足が止まった。
ある事が頭に浮かんだ。
俺はグランドイーターのポケットからポータブルナウボードをとりだした。
それでステータスを見る。
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植物 S
動物 S
鉱物 S
魔法 S
特質 S
―――――――――
この世界に来た俺の活躍をささえる能力、ユニークスキル。
この能力に、俺は以前からうっすらと感じている事があった。
俺が望んでいる事、頑張れば必ず報われるということ。
俺はそれが、オールSという形になったと思っていた。
そして、俺がもし、精霊みたいにダンジョンの主になったとしたら。
「Fファイナルでも、普通に働ける場所」
そういうダンジョンにしたい。
俺は、強くそう思った。




