585.二度あることは三度ある
ヤタガラスは玉を再度取り込んだ。
今度は色が違う、青の玉だ。
また灼熱が来るのかと待ち構えていたが――違った。
環境は変わらなかった、変わったのはヤタガラスの方だ。
玉を取り込んだカラスは人の姿に変化していく――
「くっ!」
俺は反射的に回避運動を始めた。
それは正解だった。
俺が立っていた所に銃弾が撃ち込まれた。
カンで先に動いた事でそれをかわせた。
人間の姿に変身、というのからいくつか予想が立てられるが、割とひどいパターンにはいった。
ヤタガラスが変身したのは「俺」だった。
アリスのりょーちんとも、プルンブムのリョータ様ともちがう。
見た目は完全に俺と同じもの、ドッペルゲンガーとも言うべきものだった。
そいつは気づけば目の前に迫ってきた。
一瞬で肉薄して、頭めがけてハイキックを放ってくる。
とっさに腕を上げてガード。
するとガードごと吹っ飛ばされ、縦に回転しながら吹き飛んでいく。
とっさに鉄壁弾を撃つ。
撃ち出された鉄壁弾をつかんで空中で急ブレーキをかける。
ドッペルゲンガーは追撃してきていた。
俺の急ブレーキにタイミングをずらされて一瞬だけ戸惑う間に、今度は顔面にクロスカウンターをたたき込む。
追撃してきたのと同じ勢いですっ飛ばされるドッペルゲンガー。
そいつも鉄壁弾を使って急ブレーキをかけて、体勢を立て直した。
自分と同じものに変身される、というのはこの世界の冒険者にとって一番やっかいなパターンだ。
冒険者達は「安定周回」が至上課題だ。
それが出来なくても、勝って帰ってくる、が最低条件だ。
変身系で、圧倒的に強い相手に変身されるのなら、きっぱり諦めも出来る。
しかし、自分と同じなら、勝てないわけじゃない。
捨てるには惜しい、しかし突っ込むには労力と微妙に釣り合いが取れない。
ドッペルゲンガー系というのは、冒険者にとってそれだけやっかいなパターンだ。
とは言え、今回はそれほど問題じゃない。
今回は調査の戦闘だ、周回じゃない。
一回勝てばいい。
そして、俺はドッペルゲンガー系と何度も戦ってる。
俺はタイミングを見計らって、加速弾で加速の世界に入った。
向こうもそれを読んで加速弾を撃とうとしたが、早めに入った。
このままじゃみんなと合わせるタイミングの前に切れるが(向こうはそれに合わせた)、加速弾にやられるよりはいい。
俺は加速中に調整すべく、先に加速に入った。
加速して、地を蹴ってドッペルゲンガーに肉薄する。
すると
「――っ! アブソリュートロックの石か」
迫った瞬間、ほとんど動けてない俺のドッペルゲンガーは、最小限の動きでアブソリュートロックの石で無敵モードにはいった。
オールSSのステータスに、アブソリュートロックの石で上積みされた圧倒的な防御力。
加速中で一方的にボコれても、それを突破できる確信がない。
俺は少し考えて、別の手段を思いついた。
二丁拳銃を抜き放ち、鉄壁弾を込める。
その鉄壁弾でまずはドッペルゲンガーを「釘付け」にする。
加速した世界の中で相対的に動けないのを、さらに動けないように鉄壁弾で動きをガッチリ止める。
銃は取り上げ、アブソリュートロックの石も砕いておく。
そして更にバナジウム弾で強化した鉄壁弾で覆い尽くす。
俺のオールSSは確かに強いが、特殊能力とかはあまりない。
鉄壁弾にびっしり覆われたら俺も逃げ出せない。
そして時は動き出す。
ドッペルゲンガーはもがくが、まったく動けなかった。
俺はじっと待った。
バナジウム強化鉄壁弾は、前進はしなくなったが、そのかわり空間が閉じるのも止められるほどガッチリしてる。
それで覆い尽くされた俺のドッペルゲンガーはまったく動けなかった。
あとはタイミングだ、仲間達のタイミングを待つだけ。
「……あれ?」
ヤタガラスの姿じゃないけど、タイミングはどう計るんだこれ?
もしかして、さっきのもこれでエミリーかセレストがタイミングを合わせられなかったんじゃ?
そう思った瞬間、ドッペルゲンガーがヤタガラスに戻った。
ヤタガラスの足は一本が折れているが、その足はすぐに治って、またまた三本足に戻る。
「……もう一個、やっかいなパターンがあるのか?」
セレストとエミリーが合わせられなかったパターンが。
ドッペルゲンガーを圧倒できたが。
ヤタガラス攻略は、三度、振り出しに戻る。




