584.強制サウナ
太陽が照りつける灼熱の中、俺は拳銃を抜き、通常弾を撃った。
飛び出した銃弾は、最初は普通に飛んでいったが、途中から割れた風船の様に飛び散った。
「飛び散った!?」
思わず声が上がった。
サウナの中で深呼吸したときの様な、肺を灼く不快感が一気に襲ってきた。
口を押さえて、飛び散った弾丸を見る。
地面にばらけたそれは、やがてぷるん、って擬音が聞こえてくるような感じで、丸い水滴のような形になった。
「溶けて液体になってるのか?」
ますます驚いた。
肌をじりじりと焼き付けてくる、深く息をすれば肺が不快感に襲われる灼熱だが――そこまでじゃない。
弾丸――金属が溶けるほどの温度には感じない。
驚く俺に、ヤタカラスが襲いかかってきた。
滑らかな滑空からのクチバシ攻撃――と思いきや全身に炎を纏いだした。
まるで火の鳥のようだ。
受けても防御してもただじゃすまなさそうで、俺は真横に飛んで回避した。
回避しつつ、試しにもう一度通常弾を撃った。
するとやっぱり、途中で溶けて飛び散った。
追撃してくるヤタガラスをよけながら、更に通常弾を取り出してそれを確認。
まったく溶けない、溶けそうにない。
焼けた金属は通常触れられないほどの高温になるが、通常弾はそうなってはいない。
沸騰した直後のヤカンの取っ手、我慢すれば触れるし持ち上げていられる。
それくらいの熱さだった。
とてもじゃないが溶けるほどの高温じゃない。
どういうことだろう。
俺は更に状況を把握するために、弾を銃にこめようとした――ところ。
徐々に上がっていた温度に思わず「あつっ!」ってなって、弾丸を取り落としてしまう。
「あっ」
すると、地面におちた弾丸が溶けた。
固体だった弾丸が溶けて、メタリックでつるんとした液体になった。
「……もしや」
一つの可能性を思い至って、グランドイーターのポケットから果物を取り出した。
蛇の鱗のような皮に包まれた、スネークフルーツ。
それが二つ。
うちの一つを、ぽい、と山なりに明後日の方に向かって放り投げた。
ヤタガラスに向かって投げると、纏う炎で灼かれそうだったからやめておいた。
そしてもうひとつは、手元にしっかり持ったままでいる。
違いはすぐに現われた。
持ったままのスネークフルーツはほんのり温かくなった程度で済んだが、手放したスネークフルーツは地面におちるよりも早く消し炭になった。
「飛び道具はダメ――って、セレスト!」
彼女は大丈夫なんだろうか。
糸で操作するバイコーンホーン、あれは危ない。
さくらも大変そうだった。
ジェネシスで召喚・具現化したものは片っ端から溶かされたり、燃やされたりしそうだ。
……いや、セレストは大丈夫かもしれない。
さっき、こっちの玉とほぼ同時に、他の二つの玉も消えた。
おそらくだけど、おなじ所からおりて来たセレストとエミリーには灼熱はない。
さくらが、三分の一を引くかもしれない。
確証はないが、なんとなくそう思えた。
「おっと!」
意識が逸れてしまった。
ヤタガラスの突撃が回避しきれなかった脇腹をえぐっていった。
ズキズキと痛む、傷口が二種類の熱を持つ。
遠距離攻撃は不可能。
近接戦をしかけようとすれば纏う炎がやっかいだ。
普通に戦おうとすれば、非常に手を焼かされるモンスターだ。
だが。
俺は自分に加速弾を撃った。
注射の様な「接射」でうったから、溶ける前にあたって効果を発揮した。
加速した世界に入る。
ヤタガラスの動きがスローモーションになった。
それに迫って、突進をよけて、横から痛撃を与える。
加速した世界での、一瞬での接触。
熱はほとんど感じずに済んだ。
これはいける、と俺はそのままラッシュをかけて、ヤタガラスを倒した。
すると――三本ある足の一本がおれた。
「……あ」
すぐに、これは失敗だった事に気づく。
そうだった、打ち合わせと違うんだったこれは。
俺は最後に倒さないといけないんだった。
俺は「あちゃー」となって、手で顔をおおって天を仰いだ。
しばらくして、案の定。
折れた足が復活して、ヤタガラスの攻略は振り出しに戻った。
「さっさとやっちゃいけないんだけど……あの灼熱の中で我慢してタイミング合わせるのか」
意地悪にもほどがあると、俺は思ったのだった。




