表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
584/611

584.強制サウナ

 太陽が照りつける灼熱の中、俺は拳銃を抜き、通常弾を撃った。

 飛び出した銃弾は、最初は普通に飛んでいったが、途中から割れた風船の様に飛び散った。


「飛び散った!?」


 思わず声が上がった。

 サウナの中で深呼吸したときの様な、肺を灼く不快感が一気に襲ってきた。


 口を押さえて、飛び散った弾丸を見る。

 地面にばらけたそれは、やがてぷるん、って擬音が聞こえてくるような感じで、丸い水滴(、、)のような形になった。


「溶けて液体になってるのか?」


 ますます驚いた。

 肌をじりじりと焼き付けてくる、深く息をすれば肺が不快感に襲われる灼熱だが――そこまでじゃない。


 弾丸――金属が溶けるほどの温度には感じない。


 驚く俺に、ヤタカラスが襲いかかってきた。

 滑らかな滑空からのクチバシ攻撃――と思いきや全身に炎を纏いだした。

 まるで火の鳥のようだ。


 受けても防御してもただじゃすまなさそうで、俺は真横に飛んで回避した。


 回避しつつ、試しにもう一度通常弾を撃った。

 するとやっぱり、途中で溶けて飛び散った。


 追撃してくるヤタガラスをよけながら、更に通常弾を取り出してそれを確認。

 まったく溶けない、溶けそうにない。


 焼けた金属は通常触れられないほどの高温になるが、通常弾はそうなってはいない。


 沸騰した直後のヤカンの取っ手、我慢すれば触れるし持ち上げていられる。

 それくらいの熱さだった。


 とてもじゃないが溶けるほどの高温じゃない。


 どういうことだろう。

 俺は更に状況を把握するために、弾を銃にこめようとした――ところ。


 徐々に上がっていた温度に思わず「あつっ!」ってなって、弾丸を取り落としてしまう。


「あっ」


 すると、地面におちた弾丸が溶けた。

 固体だった弾丸が溶けて、メタリックでつるんとした液体になった。


「……もしや」


 一つの可能性を思い至って、グランドイーターのポケットから果物を取り出した。

 蛇の鱗のような皮に包まれた、スネークフルーツ。


 それが二つ。


 うちの一つを、ぽい、と山なりに明後日の方に向かって放り投げた。

 ヤタガラスに向かって投げると、纏う炎で灼かれそうだったからやめておいた。


 そしてもうひとつは、手元にしっかり持ったままでいる。


 違いはすぐに現われた。


 持ったままのスネークフルーツはほんのり温かくなった程度で済んだが、手放したスネークフルーツは地面におちるよりも早く消し炭になった。


「飛び道具はダメ――って、セレスト!」


 彼女は大丈夫なんだろうか。

 糸で操作するバイコーンホーン、あれは危ない。


 さくらも大変そうだった。

 ジェネシスで召喚・具現化したものは片っ端から溶かされたり、燃やされたりしそうだ。


 ……いや、セレストは大丈夫かもしれない。

 さっき、こっちの玉とほぼ同時に、他の二つの玉も消えた。

 おそらくだけど、おなじ所からおりて来たセレストとエミリーには灼熱はない。

 さくらが、三分の一を引くかもしれない。


 確証はないが、なんとなくそう思えた。


「おっと!」


 意識が逸れてしまった。


 ヤタガラスの突撃が回避しきれなかった脇腹をえぐっていった。


 ズキズキと痛む、傷口が二種類の熱を持つ。


 遠距離攻撃は不可能。

 近接戦をしかけようとすれば纏う炎がやっかいだ。


 普通に戦おうとすれば、非常に手を焼かされる(、、、、、)モンスターだ。


 だが。


 俺は自分に加速弾を撃った。


 注射の様な「接射」でうったから、溶ける前にあたって効果を発揮した。


 加速した世界に入る。

 ヤタガラスの動きがスローモーションになった。


 それに迫って、突進をよけて、横から痛撃を与える。


 加速した世界での、一瞬での接触。

 熱はほとんど感じずに済んだ。


 これはいける、と俺はそのままラッシュをかけて、ヤタガラスを倒した。


 すると――三本ある足の一本がおれた。


「……あ」


 すぐに、これは失敗だった事に気づく。

 そうだった、打ち合わせと違うんだったこれは。


 俺は最後に倒さないといけないんだった。


 俺は「あちゃー」となって、手で顔をおおって天を仰いだ。


 しばらくして、案の定。


 折れた足が復活して、ヤタガラスの攻略は振り出しに戻った。


「さっさとやっちゃいけないんだけど……あの灼熱の中で我慢してタイミング合わせるのか」


 意地悪にもほどがあると、俺は思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ