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580/611

580.うっかりたおしちゃったです

 ニホニウムダンジョン、地下十五階。

 三人で降りてくると、モンスターの鬼が俺達を待ち構えていた。


「本当にオーガみたいな感じね」

「とても強そうなのです」


 セレストとエミリーがそれぞれに、鬼をみた感想を口にした。

 俺は頷き、先に攻略した分の情報を渡した。


「ああ、でかくて、速くて、強い。シンプルだけどハイレベルなモンスターだ」

「なるほど、正攻法でいけるというわけね」

「途中まではな」


 俺は小さく頷いた、セレストとエミリーもなるほどと頷いてくれた。


「だったら、その途中までさっそくやっちゃうです」

「たのむぞ」


 二人は同時に、俺に向かって頷き武器を構えた。


 エミリーはトレードマークの巨大ハンマー。身長の倍、重さも倍以上はあるであろう、並んでいるだけでアンバランスさが際立つコンビだ。


 一方のセレストは、体のまわりにバイコーンホーンを浮かべていた。

 バイコーンの角そのままの見た目の小さな杖を、縦にして体にぐるっと並べている。まるで土星の輪のような感じだ。


「セレスト? それは浮いてるのか?」

「糸を透明にしたの。相手には見えない方が都合がいいでしょう?」


 ふっ、と微笑むセレスト。

 俺はなるほどと頷いた。


「確かに……しかしそれは……いいな」

「そう?」

「ああ、雰囲気があって……綺麗だ」


 俺は心の底からそう思った。

 そういうのを格好いいと思う少年の心がまだ少し俺の中に残っていたようだ。


 武器を自分のまわりに浮かべて、それを自在に操るのは――うん、すごくかっこいい。


 それを素直に言葉にすると、セレストは嬉しそうだった。


「なら、実際に戦うところも見てて」

「ああ」


「それじゃいくです」

「ええ、打ち合わせしたタイミング通りに」

「はいです」


 頷き会う二人、まず飛び出したのはエミリーだった。


 彼女は大きく振りかぶると、小さな跳躍とともに、ハンマーを地面に振り下ろした。

 轟音とともに叩きつけられたハンマーは、こっちまで立ってられないほどの揺れをおこした。


 鬼は体勢を崩したが、すぐに立て直した。

 エミリーに向かって突進して、ただでさえ小柄なエミリーに向かって落差の大きいハンマーパンチを振り下ろした。


「よいっしょ……です!」


 エミリーはぐいっと体をひねって、ハンマーで慣性をつけて、フルスイングした。

 外国人選手によく見られる、豪快なアッパースイングだ。

 ハンマーとハンマーパンチが斜めに軌道が一致して、思いっきり打ち合った。


 爆音が轟く。

 衝撃波が辺りにまき散らされる。


 そんな中セレストが動いた。

 彼女は立ったまま、まるでモデルの様にポーズをとった。

 そのポーズ――両手の動きに操られて、バイコーンホーンが一斉にとんでいく。


 一本一本が、まるで意志を持った生き物かのように、それぞれ違う軌道を描いて飛んでいく。

 やはり綺麗だ。

 この先どういう動きを見せてくれるんだろうか――って思っていると。


「あら?」


 セレストの動きが止まった、バイコーンホーンの動きももちろん止まった。

 驚くセレスト、その彼女が見つめる先には――勝敗がついてしまった光景だった。


 エミリーと打ち合った結果、上半身が丸ごとぼきっと折れてしまったかのような鬼。

 まるで台風の後の街路樹のような痛々しさだ。


 それをやったエミリーは、困惑した様子で俺を見る。


「ヨーダさん……これ……」

「終わっちゃってるな」


 俺は苦笑いした。


 鬼の体がボキッと折れていることもさることながら、二本ある角が一本折れていた。

 その姿は、俺がソロで入ったときと同じだった。


「すごいなエミリー」

「ええ?」

「時間稼ぎでうっかり倒してしまうなんて、すごいよ」

「あっ……ご、ごめんなさいです!」


 エミリーは恐縮して、パッと頭を下げた。

 タイミング合わせに失敗した鬼は、角が再生して、折れた体も元に戻っていった。

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