574.あけましておめでとう?
「それを着てたら……脱がされなくなった?」
「うん」
「自分の服を着てる子は脱がせられないって事か?」
「それはわかんない」
さくらはそう言いながら、ぱらぱらとスケッチブックをめくっていく。
他のページには、柄や様式がちょっとずつ違う着物が描かれていた。
「いろいろ試してみたけど、脱がされないのはニホニウムのヤツだけだった」
「着物が、ってわけじゃないんだな」
「そういうことだね」
「ありがとう、そこまで分かればとりあえず充分だろ」
「だね」
さくらはにこりとうなずいて、スケッチブックを閉じた。
俺は視線を横に、静かに話を聞いていたアリスに向けた。
「って事は、アリスがニホニウムの格好をしていくのが最強ってことだな」
「みんなしたよ」
「え? みんなって」
「さくらっち」
「オッケー」
アリスの要請を受けて、さくらは閉じたスケッチブックをもう一度開いた。
ジェネシスを唱えて、開いたニホニウムのページから召喚。
「ホネホネ」
同時に、アリスも仲間モンスターを呼んだ。
彼女の肩に乗っている、小さなぬいぐるみの様なスケルトンが、普通の人間サイズに戻った。
「お、おう」
反応に困ってしまった。
スケルトンのホネホネ、デフォルメされた見た目のそれが、ニホニウムの着物を着ている。
格好に酔っているのか、ホネホネは着物姿で「よよよ」って感じのポーズをとった。
「こんな感じだよ」
「そ、そうか。みんなって、みんな?」
「うん、みんな」
アリスが頷くと、彼女に乗っかっている仲間モンスターが一斉にわちゃわちゃしだした。
スケルトンはまだ人型だからいい、小悪魔とか座敷童もまあ似合っているほうだ。
だがスライムとかはどうやったって似合う様には思えないし、その上ガウガウとか巨大なドラゴンだ。
「……ガウガウも?」
「まんざらじゃなかったよ、本人も」
「うそーん!?」
さくらの口から飛び出した衝撃の事実。
出来れば知りたくはなかった類の事実だった。
それをさっと忘れることにして、話を当たり前の方向性に戻した。
「でも、そういうことなら俺もいけば良かった」
「裸が見たかったの?」
「着物が見たかったんだよ! みんな――特にエミリーとか似合いそうだ」
まだ自由があった頃――学生の頃にいった初詣の事を思い出した。
晴れ着姿の女の子を普段の三倍はかわいく感じられたことから、俺は露出があればいいってもんじゃないって思ったっけな。
「なんだそんな事か、そういうことなら早くいってよ」
「へ?」
「アリスちゃん、みんなに知らせてきて」
「了解!」
アリスはビシッと敬礼して、サロンから飛び出していった。
「じゃああたしも、バナジウムちゃんのところいってくんね」
「へ? ちょっとま――」
呼び止める暇もなく、さくらまでもがサロンから飛び出してしまった。
空をつかむ俺の手がむなしくにぎにぎしている。
何が……始まるんだ?
☆
「何が……始まってるんだ?」
疑問がより深くなってしまった俺、ついつい同じ言葉を口にしてしまった。
バナジウムダンジョン、地下一階。
一時的に拡張した空間を、ダンジョンの精霊、バナジウムが内装を作った。
その内装は、さくらが描いたものを忠実に再現したものだった。
さくらの絵を見せてもらったが、某マンガ家マンガに出てくるスーパーアシスタントに匹敵するほどのスーパーテクニックだった。
それをベースに作ったこの空間も、現実に忠実な再現度だった。
神社。
巫女が竹ホウキを持って掃いていそうな場所に、仲間達が勢揃いしている。
ただいるだけじゃない、全員が着物姿になっている。
冒険者組のエミリーにアリス、セレストにイヴとさくら。
商人組のエルザとイーナ。
精霊のアウルムにバナジウム。
ほぼ、この屋敷に住んでいる全員が晴れ着姿になっていた。
ちなみに、それぞれの晴れ着が微妙に違っている。
これを全部さくらがかき分けたのかと思うと、彼女の才能に驚嘆するほかない。
ちなみにカーボンは拒絶して、今もちょっと離れた物陰からはあはあしている。
「えっと……さくらさん? これなに?」
まだちょっと状況が飲み込めていない俺は、さくらにおそるおそると聞いてみた。
さん付けまでしてしまった。
「お正月イベント」
「おしょうがついべんと?」
「おじさん、こっちの世界にきてやってないでしょ。いい機会じゃん?」
「はあ……」
たしかにお正月っぽいことはしてこなかったが……。
まあでも、そういうことなら。
お正月みたいなお祝いなイベントはやってもいいのかもしれない。
そう思って、俺は余計な口出しをしないで、さくらに任せることにした。
「ってことで出し物その一、よいではないかよいではないか」
「それはだめーーーー!!」
やっぱり任せるわけにはいかなかった。
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