571.凍えるシチュエーション
「リペティション!」
出会い頭に一発、奪衣婆にリペティションをかましたが、きかなかった。
その直後に俺はまたしても服を剥かれて、真っ裸になった。
「……リペティション」
特殊な倒し方をする階層をこれまでたくさんやってきた経験から、俺はもう一度リペティションを使った。
すると奪衣婆は倒れて、ブドウをドロップした。
「はあ……」
俺はため息をついた、やっぱりな、と思った。
奪衣婆に服を奪われる間は無敵状態、攻撃を一切受付けない状態なんだな。
アクション系のゲームにありがちな、姿を見せてから、攻撃を受付けるまでのタイムラグ。
奪衣婆にはそういうタイムラグ、無敵時間がある。
「やっかいだな」
心の底からそんな感想がでた。
登場してすぐに倒せないのはつらい。
服を奪い、木に掛けるまでの動作が終わるまで攻撃が出来ない。
事実上、向こうの先制攻撃が確定している。
「先制攻撃……だろうなあ」
今のところ何も起きていないが、服を奪って木に掛ける、この動作になにもないわけがない。
今までの経験から、それは確かだろうと思った。
うばわれた服を再び着る――複雑な気分になった。
こんなに服を短時間で脱がされたり着たりする経験は今までになかった。
売れっ子風俗嬢――なんていうツッコミを思い出した。
俺は少し考えて、脳内マップを精査した。
そして一番近くにいる、奪衣婆が二体一緒にいる所に向かった。
エンカウントする、奪衣婆が二体。
二体いるとき、脱がされた後どうなるんだ? という疑問を晴らすためにやってきた。
何かあったときのために、アブソリュートロックの石を手に取った――が。
服ごと、石も持って行かれた。
「そうなるよな」
俺は苦笑いした。
奪衣婆の先制攻撃、完全な武装の解除。
いざって時の備えである、アブソリュートロックの石も持って行かれた。
幸い、服を脱がされた後、追加で何かをされる事はなかった。
あくまで服を脱がせて、木に掛けるだけ。
「リペティション!」
武器を全部取り上げられて、大事な所もぶらぶらの状態では、リペティションに頼らざるをえなかった。
奪衣婆を二体ともリペティションで倒して、ブドウをドロップさせる。
そして服をとりに向かう――が。
「むむ?」
服をかけている木をみて、小首を傾げた。
「もしや……」
ある仮説が出来て、俺は服をきたあと、ブドウを拾い上げて、次の奪衣婆のところに向かう。
四度目の全裸、ぬがされた服は木に掛けられて――木が大きくしなった。
掛けた服の重量でしなりながら上下している。
「ますます何かあるな」
リペティションで倒れた後、ドロップしたブドウを含めて、今までドロップしたものもその場に置いていく。
そして服をきて、更に奪衣婆を探す。
エンカウント、全裸、そしてかけられる。
慣れていく自分が、ほんのり切なかった。
それはそうとして。
「しならないか」
リペティションで奪衣婆を倒しつつ、かけられた服を見る。
木にしっかりかけられて、重さを全く感じない見た目だった。
持っているドロップ品の数、か?
そう思いながら、俺は高速で奪衣婆を倒して回った。
全裸になるのは避けられない、ならばそのままでいい。
俺は全裸のまま、次々と奪衣婆を倒して回って、ブドウを拾った。
ブドウを十房くらいゲットしてから、放置してあった服の所に戻ると――推測通り。
かけられた服の重みに耐えきれず、木がバキッと折れて、服が地面におちていた。
「つまり、もってるドロップ品が増えれば増えるほど、服の重さが増すのか?」
それがなんなのか――と、思ったその時。
「おじさーん、いるー?」
「さくら? ここにいるぞー」
言ってからは、俺ははっとした。
何をはっとしたのか深く考える間もなく、さくらがやってきた。
「いたいた――…………………………」
曲がり角から姿を現わしたさくらは、一瞬ビクッとして、そのまま無言で俺を見つめた。
とても、とても冷たい視線。
物理的に凍えそうだと感じるくらいの、冷たい視線。
「おじさん……ダンジョンで全裸なのはどうかと思うよ」
「ちがっ! そうじゃなくて!」
悲鳴をあげず、ものすごい白目を向けてきたさくらに、俺は必死に弁明するのだが。
「その前に服きたら?」
彼女は最後まで冷静で……俺はより深いダメージを負ってしまうのだった。
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