565.順番
「……」
たくさんのニホニウムは、悲しそうな顔をしながら、一歩ずつ近づいてくる。
その表情は、普通に出会っていたら罪悪感を掻きたてるのには十分なものだった。
しかしここはダンジョンで、目の前にいるニホニウムは多すぎてどう見てもモンスターにしか見えなかった。
モンスターは倒すもの、ニホニウムを倒す、というのはこのタイミングだと罪悪感が芽生えそうなものだ。
逆に、モンスターだとわかるから、罪悪感もあまり湧かなかった。
「それに」
俺はつぶやきながら、抜いた拳銃を一番近くにいるニホニウムにむける。
そのニホニウムは俺が拳銃を突きつけるとますます悲しそうな顔をしたが、その変化がますます俺に確信させた。
アリスをこえた能力、脳内のミニマップ。
レーダーの効果が出ているそのミニマップには、(目の前には)光点が一つしかなかった。
ざっと10人以上のニホニウムがいるが、光点は一つしかない。
俺が光点に銃口を向けると、光点はさっと「逃げて」、別のニホニウムに移った。
おそらく――いやほぼ間違いなく、本体と分身という感じなんだろう。
言うまでもなく光点があるのが本体で、俺に銃口を向けられてさっと逃げ出した。
銃口を向けたまま、光点が見えない方のニホニウムを撃つ。
ヘッドショットが綺麗に決まって、ニホニウムは仰向けに倒れて――プスッ、と空気がぬけたような音を立てて消えた。
そして、ドロップはなかった。
他のニホニウムは変わらずいて、徐々に近づいてくる。
俺は銃口を明後日の方角に向けて、引き金を引いた。
打ち出された銃弾が、明後日の方角から弧を描いて、ホーミング軌道で光点のニホニウムに向かって行く。
光点の移転はされることなく、そのニホニウムは撃ち倒された。
まずそのニホニウムがプスッと消えた、一呼吸遅れて他のニホニウムも消えた。
光点のニホニウムは一旦カラスの姿になって、その後普通のモンスターの様に消えた。
「あれ?」
が、ドロップはなかった。
本物を倒した、という状況は間違いないはずだ。
光点の方を倒すと他の偽物がまず消えて、そして光点が多分本来の姿であろうカラスに戻って、それから消える。
ちゃんと本物を倒した、という事であってるだろう。
なのに、ドロップはなかった。
「こういうとき、ドロップSは助かるな」
可能性が複数存在する、原因を切り分けするときに、何かが100%……それか0%なのはありがたい。
今回もそうだ。
ドロップSは生きてる、ならモンスターを倒したらドロップするはず。
しないのは何かが間違ってるという事なんだろう。
俺はさっきやった事を一通り思い返した。
そして、脳内マップで、遠くにある光点を目指して歩き出す。
なるほどこれがアリスがいつもやってる事かー、とちょっとだけ面白くなってきた。
光点がある場所にたどりつくと、そこにはまた大量のニホニウムがいた。
俺は自分に加速弾を撃った。
加速した世界にはいって、光点の移動が間に合わないような速さで、光点のニホニウムを倒す。
するとまた偽物だか分身だかが消えて、本物はカラスになってから消えた。
ドロップはした。
今度は俺も知っている果物、スモモだ。
相変わらずすっぱい果物だなあ、とそれを拾い上げて、かじって腹に収める。
そして、更にモンスターの所に向かう。
今度はまず偽物をたおしてから、本物を倒した。
ドロップはなかった。
更に別の光点に向かう。
今度は戻った能力――最強周回魔法リペティションを撃つ。
光点に関係なくモンスターが倒れて、スモモがドロップされた。
更に探す。
今度は偽物を倒してからのリペティション。
すると、ドロップはしなかった。
これで確定だな。
本物を倒す前に偽物を倒してしまうとドロップはしないようだ。




