555.進化
貴重になった火炎弾を撃った。
とりあえず明かりを――ってことで撃ったんだけど、炎はでなかった。
いや、炎はでた。
ほんのりと熱が伝わってくる。
熱はあるが、明かりにはならなかった。
これって――
「ぐふっ!」
状況把握もままならないまま、後頭部にガツン! と衝撃が走った。
目の前がチカチカして、前のめりに倒れそうになってしまう。
寸でのところで踏みとどまって、振り向きざまに裏拳を払うように放つ。
何も当らなかった、手応えがなかった。
崩れかけた姿勢を立て直そうとしたら、今度は脇腹に衝撃が走った。
グッと踏みとどまって――三度。
横顔に衝撃が来た瞬間に反撃した。
「速いっ!」
反撃のパンチが空を切った。
最初の不意打ちから、二発目で決意し、待ち構えた三発目。
それに合わせて、待ち構えての反撃だったが、まったくかすらずに外れてしまった。
「速さには速さだ」
俺は加速弾を自分に撃った。
バナジウム弾を込めた、上位の加速弾。
超加速した世界に入って、待ち構える。
少しの異変も逃さない様に、暗闇の中で神経を尖らせる。
すると、今度は肩に来た。
俺の方は加速してるから、ほとんど「触れた」程度の感触。
それを逃さず、反撃のパンチを放つ。
「――なっ!」
パンチは空を切った。
まったく手応えのないまま空を切って、しかしこっちへの攻撃が続く。
感触が徐々に増大して、痛みが増してくる。
加速が終わって、通常に戻る。
また、打撃がとんできた。
「遠距離攻撃か?」
それにこらえつつ、加速中に起きたことを思い返す。
当った瞬間に反撃した。
普通なら綺麗にカウンターが決まるところだ。
それなのに手応えがないと言うことは、そこにいないからなのだろう。
まったく手応えがないというのもそうだ。
手応えがない、というのも実は二種類の場合がある。
本当に何もない、のと。
当った感触はあるけどダメージがとおった感覚が無い。
この二パターンだ。
今回のは、何かに触れた感覚すらない。
更に、この暗闇である。
攻撃をしてきた相手が「そこにいない」というのはおそらく間違いないだろう。
遠距離攻撃となると、かなりやっかいだ。
見えない相手が遠距離攻撃をしかけてきた、しかもまったく見当のつかない方向から。
今も、いろんな方向から攻撃が飛んできている。
やっかいだ、やっかいすぎる。
こうなったら一時撤退しよう。
状況は分かった、ここは出直そう。
火炎弾の明かりもかき消され、指先さえも見えないほどの暗闇で、いわんや道――なのだが。
俺にはダンジョンの構造が分かる能力がある。
それをつかって脱出だ。
脳内にいつものようにミニマップをだして、俺はそのマップを頼りに歩き出した。
とりあえず階段、その後上の階に戻って、転送ゲートで屋敷に戻る。
そう思って、ガードしながら歩き出した……のだが。
「すすんでない?」
すぐに異変に気づいた。
歩いても歩いても、脳内のミニマップが表示している自分の居場所からちっとも進んでいないのだ。
どういう事だ? と思う間も攻撃は次々ととんでくる。
全能力SSの俺、大きなダメージにはならないが、一方的な攻撃はダメージを蓄積していく。
何より立て続けに攻撃をされて、考えもまとまらない。
なんとか脱出しないと。
このままだとまずいことになりかねない。
いや、もう既になっている。
早く脱出しないと、早く……。
そう思い、ダッシュを始めた。
ダッシュしても攻撃される頻度は変わらなかった。
脳内のミニレーダーの位置は変わらなかった。
たまに動いたと思えば、それは何かを見つめている時に動いたように見えた錯覚だとすぐに気づく。
俺は、脳内のミニレーダーでは、一歩も動いていない。
なんでだろう、なんでだろうと思いながら、意識はドンドンレーダーに集中していく。
すると――レーダーが変わった。
それまでダンジョンの構造だけだったのが、他にいくつも光点――何かがある様に表示された。
そのうちの一つが、俺と完全に重なっている。
「モンスターと一緒――いや! 飲み込まれたか!?」
ピンチで追い込まれた俺。
追い込まれたおかげで能力が進化して、状況を瞬間に把握した。




