552.地下十階へ
雪女が消えた後、いつものようにフルーツがドロップされた。
「これは……なんだ?」
落ちているそれを拾い上げて、マジマジと観察する。
ギザギザの葉っぱと、松ぼっくりみたいな果実の部分。
見た事のない果物だった。
ニホニウムがリニューアルされてから、見た事の無い果物が次から次へとでてきている。
四階のミラクルフルーツを始めとする、あまりなじみのない果物ばかりだ。
知ってるものもあれば、さくらに聞いて判明するものもある。
俺が知らない――つまり日本にはあまりない果物のためか、名前が「○○フルーツ」ってパターンが結構ある。
「異世界だし、ドラゴンフルーツでもでてくるのかな」
なんとなくそんな事をつぶやいてみた。
ドラゴンフルーツっていうのは、れっきとして元の世界にも存在している果物だ。
漢字で書くと「火龍果」ってなって、更に格好良くなるそれは、サボテンの一種の果実だ。
もっとも、この異世界で「ドラゴンフルーツ」って言う名前が出てきたら、それは違う何かになるって気がしなくもない。
こう……食べたら火をふけるようになるとか、そういうの。
そんな他愛もないことを考えながら、ドロップした果物を吟味する。
ギザギザの葉は完全に食用に適さない感じだ。
葉と松ぼっくりの部分が、大根とその葉の感じと似てるから、もしかして地中に成るものなのかなって思った。
まつぼっくりっぽい部分はものすごく硬くて、とげとげしくて防御力が高そうだから、そんな感じがした。
この場合、松ぼっくりっぽい外側をむいて、中に果実が入ってるんだろうと簡単に予想がついた。
俺はそれを縦に真っ二つに割った。
硬くてとげとげしい果実だが、力SSの前では無力。
簡単に二つに割ることが出来た。
途端、果実の香りが漂い出す。
甘酸っぱい感じの、見た目からは想像出来ない美味しそうな香りだ。
「って、パイナップルじゃんこれ!」
断面の黄色い果肉にそっと触れて、果汁を口に運ぶ。
やっぱりパイナップルだった。
パイナップル自体、そんなに縁がないわけではない。
ピザではカットしたものを見かけるし、ジュースとか居酒屋のサワーなどでパインなんとかが出てくる事は結構ある。
ちなみに酢豚に入れるのは何があろうと許せない派だ。
「へえ……パイナップルってこうなんだ……」
松ぼっくりのような外見なのはまったく知らなかった。
でもまあ、なんとなく納得ってきもする。
そして、このパイナップルも――。
「うん、甘酸っぱい」
これまでの例に漏れず、すっぱい果実だった。
リニューアルした新・ニホニウムは、これまでミラクルフルーツという例外を除いて、ほとんどすっぱさが特徴の果物がドロップされている。
このパイナップルもそうだ。
「もしかして……ドロップステータス次第で酸っぱさが変わるのかな」
なんとなく、その可能性もあるんじゃないかって思った。
今度仲間のみんなに協力してもらって、そこも検証していこう。
俺はそう思い、更に何体かの雪女を倒していった。
ニホニウムによく似た見た目だが、雪女というモンスターだし、攻撃をしかけてくる相手だから、容赦なく倒す事ができた。
ドロップしたパイナップルを拾いながら、ダンジョンを進み、階段を見つけて、下に降りる。
新・ニホニウム、地下九階。
相変わらずの、脈動する内臓的なダンジョン。
「――っ!」
変わらない事を理解した次の瞬間、俺は目がカッと見開くほど驚いた。
俺の能力、まだ発展途上で、アリスの下位互換の能力。
ダンジョンの構造のみを把握する能力。
普段使いするには足りないところもあって、色々工夫したりする必要があるのだが、今はそれだけである事が分かった。
脳内に投影される感じでのダンジョンの構造は、俺が立っているところと、ダンジョンの全体構造と、そして二つの階段がある。
上から降りてくる階段と、下に降りていく階段。
下に降りていく階段。
始めから存在するということは、それは十階に続く階段だろう。
ニホニウム――十階。
新・ニホニウムでも、特殊弾は戦闘ステータスと関係していたから、てっきり九階までだと思っていた。
それに出てきた、十階の可能性は、驚きとともに、興奮を感じさせるものだった。




