550.人魚
「うん! この子の呼ぶ声が聞こえたから」
「はぇ……」
開いた口が塞がらない、ってのはこういう時の事をいうんだろうな。
目の前にいるアリスとその仲間モンスターたち。
スケルトンのホネホネを始め、本来の姿からデフォルメされたみんなが新しい仲間のむいむい? と囲んでわいわいやっている。
「そうそう、これがドロップ」
そういって、アリスは赤い何かを差し出してきた。
それを受け取って、見つめる。
「いちご、か」
「だね」
「座敷童がドロップしたものか?」
念のために確認する。
「そっ」
「なるほど……いや、ありがとうな」
「ううん、こっちこそありがとう。むいむいと出会えたのリョータのおかげだよ」
「偶然だけどな――でもまあよかったよ」
アリスとその仲間モンスターたち。
ある意味アリス一家の仲の良さはいつも見ている。
入ったばかりのむいむいにしても、元からいるみんなにしても。
仲間がふえるのは素直にいいことだ。
「とにかくありがとう」
「リョータはこれからどうするの?」
「七階に降りる。六階は大体分かったし、俺にはちょっと難しい場所だから、そのまま降りる事にする」
「そか。一緒に行った方がいい?」
「いや大丈夫。どうしてもダメなときはまた協力を頼むよ」
「うん! わかった!」
大きく頷いたアリス。
彼女はむいむいを始め、仲間モンスターのみんなをつれて、転送部屋を使ってどこかのダンジョンに向かった。
それを見送ってから、俺も転送部屋を使ってとんだ。
まずは地下六階、そこからダンジョンの構造を把握して、最短ルートでしたの階に向かう。
途中で何体もの座敷童とエンカウントしたが、攻撃をしかけない分には罪悪感も感じずにすむし、向こうも攻撃をしてこないから、特に問題はなかった。
「一般開放したら、一番来たくない階層になるなあ……」
俺はそうつぶやいて、自分でも分かるくらい複雑な顔をした。
今までの状況を見る限り、冒険者が新・ニホニウムになだれ込んだ後は、この階は無抵抗の座敷童を一方的に攻撃する、って事になる。
それは絵面としては最悪だが……アルセニックと同じだし、超一流の冒険者がやってることとも同じだって考え方も出来る。
ちなみに、小学校の頃、情操教育? のために学校で――クラスで豚をかっていた。
みんなで可愛がって、情も沸いた頃に――まあ、豚は肉になった。
戻ってきた精肉をみて、ものすごく複雑な気分になった。
座敷童もモンスターである以上は――ってのは分かるけど、俺にはちょっと無理だなあ……。
なんて事をおもいながら、階段を降りて、地下七階にやってきた。
相変わらずの内臓ダンジョン、脈動する壁と天井と床。
そこに現われたのは――。
「シー○ン?」
音声入力ゲームのはしりの、あの無愛想な人の顔をした魚を思い出した。
人魚――と言われて連想する上半身人間、下半身魚の姿とは違う。
いわゆるジュゴン――とねたにされるその姿とも違う。
体は魚、顔だけが人間という感じのやつだ。
かわいげはなかった。
人間の顔に、長くてウェーブのかかった黒髪、わかめのような黒髪を生やしている。
その頭頂部には鬼のような角がちょこん、と二本はえている。
座敷童と違って、かわいげはまったく無い。
「……」
パンパンパン!
俺は無言で、通常弾を連射した。
弾は眉間、心臓、そして腹を正確に撃ち抜いた。
人魚は倒れ、ピクン、ピクンと跳ねた後、ポンと姿を消してドロップした。
「これは……梅、か」
拾い上げて、一口かじる。
見事にすっぱかった。
やっぱりすっぱいニホニウム産の梅を完食して。
「よし、次」
俺は、まったく抵抗感なく、次の人魚を探すため地下七階を徘徊しだした。




