548.二人っきりのために
「どうしたんだサクヤ」
ニホニウムと一緒に消えたサクヤ。
大分前から、彼女と一緒に行動するようになっていたから、ニホニウムがいなくなればサクヤもいなくなる――って事で深くは考えていなかったが、そのサクヤがいきなり現われた。
サクヤは俺の質問に、首をふって答えた。
「……」
首を振っただけで、何も言わない。
俺は不思議に思いながら、サクヤの横から廊下に顔を出して、見回した。
廊下には他に誰かの姿はない。
もしかしてニホニウムが戻ってきてるかも――なんて期待もあったんだけど、そうでもないようだ。
出した首を引っ込めて、再びサクヤに聞く。
「ニホニウムは?」
「……」
彼女は再び、首を振った。
そして同じように、首を振る以上のリアクションはなかった。
「なんか訳ありだねおじさん」
「そうみたいだな……」
俺は少し考えて、更に聞く。
「もしかして、しゃべれない?」
「……」
また首をふった。
「何かをされた?」
「……」
「……しゃべるなとか言われた?」
「……」
延々と首を横に振った後、今度は首を縦に振った。
「口止めかー。というかバナジウムちゃんみたい」
両手を後頭部に回して、どこか楽しげな様子でそういうさくら。
「ねえ、今からニホニウムのところに戻れる?」
首を横に振るサクヤ。
「ニホニウムにこっちにいろって言われた?」
今度は肯定で縦に振った。
「――ってことはさ」
「ああ、何もいうな、屋敷に戻っていろ。そう言われたんだな」
「だねえ。ついでにいうと、これ以上の情報はないだろうね」
「だなあ」
頷きあう俺とさくら。
「そこらへんが確定したのは良いけど、情報が足りないのは不安だな」
「プルンブムに聞いてきたら?」
「プルンブム? なんで?」
「なんでって……」
さくらはちょっとだけ、呆れた様に白い目をした。
「とにかく聞いてみなよ。……精霊の事は精霊に」
「ふむ」
「アウルムちゃんは夜戻ってくるから、戻ってこないあっちは、おじさんが出向いて聞いてきて」
「そうだな、分かった」
状況がわからないんだ、現状をまとめて精霊達に聞く、というのは当然の流れだ。
「分かった、ちょっといってくる」
俺はそう言って、部屋から出て転送部屋に向かった。
☆
「……って、わけなんだ」
今日二度目のプルンブムの部屋。
精霊の部屋に転送でとんだ俺は、驚く彼女に状況を説明した。
「ふむ」
「なにかわからないか? なんでもいい、想像できるどんなささいな事でもいいんだ」
「むこうがそうなのかはわからぬが、わらわもこの状況ならそうしたのじゃ」
「そうなのか!?」
さすがに驚いた。
さくらの言うとおりだ。
プルンブムのこの答えは、ニホニウムのやろうとしていることをはっきり分かってると言ってる様なものだ。
「どうしてなんだ?」
「そなたは行くのであろう? ニホニウムのところへ」
「ああ」
「ニホニウムはそなたが来るであろうと確信している」
「……そうだな」
今までの事を思い出してみる。
ニホニウムが屋敷に来るようになってからの、精霊とダンジョンとの出来事。
俺が今、ニホニウムのところを目指していて、何があっても方法を見つけて辿り着こうとしているのは、ニホニウムも確信してるだろう。
「であれば、邪魔者をさきに帰すのは当然のこと」
「邪魔者?」
「わらわも、そなたが来ている時は邪魔者にいてほしくはない。そなたと話している時に第三者がいては興ざめであろう?」
「……それだけ?」
「うむ」
プルンブムははっきりと頷いた。
「いや、それだけというのも違うのじゃ」
「え?」
「そなたとの逢瀬、二人っきりになるための下準備、大事なことじゃ」
「はあ……」
プルンブムはそう言った。
たしかにそうかもしれないけど……でもやっぱり。
それだけ? っていう気持ちだ。
「わらわはそなたから色々話を聞いて、色々と学んだ」
「え?」
いきなり何をいいだすんだ? と、驚いてプルンブムをみる。
彼女は珍しく、悪戯っぽい笑みで。
「朴念仁め、とだけ言っておこう」
そう、いったのだった。