547.ニホニウムの方から来ました
「話は聞かせてもらった、この世界は滅亡する」
背中に「ドーン!」って感じの擬音を背負う勢いで、さくらが部屋に入ってきた。
帰宅した後、サロンタイムまでの間。
俺が自分の部屋で休んでいたところに、さくらがいきなりたずねてきた。
「な、なんだってー」
さくらの「それ」にはもはや驚かされることもなく、俺は適当に棒読みでお約束に付き合ってやった。
ネタふりにしっかり付き合ってもらったさくらは嬉しそうににこりとしながら、更に言ってきた。
「聞いたよー、おじさん、今日の稼ぎのこと」
「ああ、エルザから聞いたのか?」
「53万ピロなんだって? すごいじゃん。これはもうあれだね、私の戦闘力は53万です、でも本気をだすつもりはないからよろしく、ってやるところじゃん?」
「いやいや、53万はそうだけどテストだし、おわったら普通に本気だすし」
「最終形態は1億2千万だから頑張って!」
「一日でそんなに稼げるか! というか」
俺は苦笑いして、さくらに聞き返す。
「よくそんなネタ知ってるな。いや、あんたがそういうキャラなのは知ってるけど、ネタが古すぎないか?」
あれのリアルタイムなんて、俺でさえ割と微妙な年代だぞ。
「ああ、それね。偶然だよ偶然」
「偶然?」
「うん! クウ×フリで偶然しったんだ」
「くう……ふり?」
なんだろう、言葉の意味は分からないけど、絶対に触れちゃいけないって気がする。
「しらない? ク○ラとフリ○ザの禁断の兄弟――」
「わーわーわーわーわーわー!!」
俺は大声でわめいて、さくらの言葉を途中で遮った。
触れちゃいけない、絶対に触れちゃいけない事がこの世の中にある。
「どうしたのいきなり?」
「よい子のみんなは絶対にググっちゃいけないんだぜ……」
いきなりわめきすぎたのと、精神的にやられたのダブルコンボで、どっと疲れてしまった。
「でもすごいねおじさん、話は聞いてたけど、それなら座ってるとか、寝てるだけとかでも稼げるんじゃない?」
「ああ、実際に前に似たような実験をしてたんだ」
「へえ? どんな」
「アブソリュートロックの石とハイガッツスライムの反射をつかってな」
「そんなのあったんだ?」
「だいぶ昔の事だけどな。ああいや、イヴは今でもやってそうだ」
俺はハイガッツスライムの一件をさくらに説明した。
「寝てるだけで、起きたらニンジンの山に囲まれてるのが良いからって事で、イヴはそれをものすごく気に入ってたはずだ」
「あはは、彼女らしいね」
「だな」
「おじさんはあしたもニホニウム?」
さくらがいきなり話題を変えた。
それまでのネタまみれの話と違って、比較的真面目な話だ。
「まあ、そのつもりだ。一気に九階――あれば10階まで降りるつもりだ」
「どうして九階?」
「これ」
俺はポケットから、複数の特殊弾を取り出した。
「これは?」
「新しいニホニウムの妖怪、そのハグレモノから取れた特殊弾だ。効果は旧ニホニウムの同じ箇所の、一時的に能力を上げる弾だ」
「なるほど、だからとりあえず九階ってことか」
「そうだ。ただヤマタノオロチが四階に出てきたから、前とちがって、10階以降が存在してるかもしれない」
「ふむふむ」
「どっちにしろ、やることは変わらない。ニホニウムにあう、そのためには残りの勾玉と鏡をみつけて、その能力も試す。まずはそこだ」
「そっかー。おじさんって結構すごいね」
「え?」
いきなりどうした、って顔でさくらを見る。
さくらはからかうでもなく、本気でそう思ってる、って感じの表情で俺を見ている。
「いや、やるべき事を見失なっていないんだもん。あたしの同級生とかだったら、この辺で浮かれて色々見失ってるところだよ」
「いや、さくらの同級生でもさすがにこの場合は見失わないだろ。ニホニウムは長い間一緒に暮らしてた仲間なんだから」
「そんな事もないと思うけどねー、まいっか」
さくらは肩をすくめ――その時。
コンコン。
ドアがノックされた。
「はい?」
応答すると、ドアが静かに開かれる。
そこに立っていたのは――
「サクヤ?」
ニホニウムのそばにいるはずの――東方の巫女、サクヤだった。