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546.自動稼ぎ

 テルル、地下一階。


 俺は魔法カートを押して、実家のような安心感すら感じるダンジョンの中を進んでいた。

 今までとは、まったく違う気分で歩いていた。


 例えるのなら――スーパーマーケット。


 スーパーの中を歩いて、カートを押しながら、商品を見定めている。

 そんな気分で、「戦う」という感覚がまるっきり頭から抜け落ちていて、感じられない。


 それというのも――


「でた」


 天井からまるで滴り落ちてくるかのように、スライムが現われた。

 スライムは現われるなり、こっちに襲いかかってきた。


 ピョンピョンピョン――といつものゴムボールの様な跳ね回り方で、体当たりをしかけてきた。


 俺は反応しなかった。

 そのまますすみつづけた。


 スライムは更に近づいてくる――そのまま斬られた。

 どこからともなく、虚空から現われた草薙の剣が、スライムを正確にズバッと両断した。


 斬られたスライムは、ドロップ品のもやしに変わった。

 そのもやしを拾って、カートに入れる。


 そして、再び歩き出す。


 さっきとまったく同じ。

 スーパーでのお買い物モードとほぼ同じような感じで、テルル一階を徘徊する。


 スライムと遭遇する。

 草薙の剣が勝手に倒す。

 ドロップする。


 歩くだけで稼ぎ続ける事ができる、システムができあがった。



 草薙の剣。

 検証した結果、エンカウントしたモンスターに、自動で援護攻撃を一発入れてくれる効果だった。


 いや、モンスターだけじゃない

 俺に攻撃をしかけてくる相手なら、誰であろうと――たとえ仲間達であろうと。


 ニンジン一本で引き受けてくれたイヴでも、そんなのなくとも快く引き受けてくれたエミリーでも。


 攻撃をしかけてくる相手には、誰彼構わず先制で援護攻撃をしてくれる。


 その威力は強いとはいえないが、弱くもないというレベルだった。


 強敵相手には威力とかダメージは雀の涙程度のものだし、今はもういないが、旧・ニホニウムの三つ首ゾンビ辺りにはむしろ邪魔だと思ってしまうだろう。


 それを、この日は朝から使い続けた。


 魔法カートを押すだけの、お散歩モードでテルル一階を歩いて回った。


 俺はまったく手を出さない。

 草薙の剣だけで倒せるテルル一階のスライムを相手にして。


『歩くだけで稼ぐ』


 というのをやってみた。


 延々と歩く、ひたすら歩く。


 押し手のところを両手で押すのが面倒臭くなって片手で押してみたり、軽く押し出してそれを追いかけてキャッチ(、、、、)したり。

 ぐるっと半回転させて、押し手のところじゃなくて「前」を押してみたり。


 スーパーの買い物カートでやったことのある事を、一通り退屈凌ぎにやってみた。


 手は出さない。

 今日のテストの内容では、俺は手を出しちゃいけない。


 そのかわり、とにかく歩き続けた。


 ポケモンG○! にはまっていた友達みたいに、ひたすら歩き続けた。

 朝から歩き通しで、「上がり」の時間になって、屋敷に戻る。


 転送部屋を経由して、エルザ達の店に向かう。


「リョータさん」


 店先で、エルザが待ち構えていた。


「どうしたんだ?」

「そろそろ時間でしたから」

「そうか。わるいな、わざわざ」

「いいえ。リョータさんの実験を手伝うのも大事なお仕事ですから」

「それで――どうだったんだ?」

「はい! 今日の買取額は、53万ピロでした」


 前もってエルザには、端数は省いていいと言ってある。

 それで出てきたのがこの数字だ。


「53万ピロか」

「はい、すごいですよリョータさん」


 エルザは興奮気味だった。


「一日歩くだけでこんなに稼げるなんて」

「そうだな」


 普段の俺に比べれば少ない稼ぎだが。


 それでも、「一日歩くだけで」と考えれば。


 五十万は、結構な稼ぎだと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに多いのは多いけど……終業時間までただひたすら歩き続けるのって、楽のようで苦行な気も 何だろ? 高額年金受給者が暇持て余して散歩だけしてる感というか……
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