519.119番目の精霊?
夜、自分の部屋の中、ベッドの上に寝っ転がりながら考えた。
エルザはああ言ってくれたけど、まだまだたりない、今の倍は稼がないといけない。
スライム無効の指輪をつけて、捨て身で思いっきりやった今日の稼ぎが、事実上今の俺の限界だ。
能力は最低、武器とアイテムでカバーした限界値が230万。
それが分かったことは意味のある事だ。
だけど、現実には毎日最低で400万ピロ稼ぐ必要がある。
そのためには何をすればいいのか、何が足りないのか。
それを考えた。
「さらなる武器、アイテムだろうな」
レベルは期待できない、この世界ではレベルの上限を下げるアイテムはあっても、上げるアイテムはない。
この世界に転移してきて、いろんな人に話を聞いたり、調べたりしたが、それはないというのが結論だ。
同じくドロップSというのも今までには存在しない。
そういう意味では、レベルを上げるアイテムも、可能性としては全くのゼロではないだろうけど、もう一人ドロップSが現われるのと同じくらいの奇跡がいる。
そっちは期待できない。
なら能力。
こっちはそこそこ、やりようがある。
例えば俺が持っているクイックシルバー。
延々と重ねがけをすれば、全能力をワンランク上に上げることが出来る。
こっちは調べてなかった。
今まではニホニウムがあった。
ニホニウムに通っていれば、最初はオールS、その後はオールSSが見えてたから、調べる必要もなかった。
うん、これを調べてみよう。
そして弾丸だ。
ニホニウムに頼らなくても、いろんな特殊弾をゲットできた。
それをもっとさがそう。
当面は稼ぎつつ、能力と、弾丸。
この二つを探して、調べていこう。
こうして、次の目標が固まった。
この時、俺は可能性ばかりを見ていて、これまでの物をまったく見落としていた。
☆
「……(ぐいぐい)」
翌朝、部屋を出て洗面所に向かうと、袖が引っ張られた。
覚えのある感触に立ち止まって振り向く、バナジウムが立っていた。
「どうした?」
バナジウムは答えず、俺の袖を引っ張ったまま歩き出す。
何かあるんだろうか。
俺は素直について行く。
バナジウムが連れてきたのは屋敷の玄関、ダンジョンの入り口。
そして、外を指さす。
「お客さん?」
「……(こくこく)」
なるほど、と俺は頷き、外に出た。
バナジウムダンジョンは他人を入れないから、客が来るときは外に出るようにしている。
今回も同じで、外にでると、そこにクレイマンが立っていた。
俺に「形式上飼われている」ユニークモンスターの一体で、ハグレモノの村「リョータ」の村長だ。
そんな彼が、珍しく訪ねてきた。
「どうした、珍しいなここに来るの。何かあったのか?」
「リョータ様の事を聞きました」
「俺の?」
「金銭に困っているとか」
「あー、誰から?」
「ミーケとケルベロスです」
「なるほど」
俺は微苦笑した。
俺の状況は、夜のサロンでの雑談で、ファミリー全員がほぼ正確に把握している。
ミーケとケルベロスは仲間扱いだが、ユニークモンスターでもある。
クレイマンと繋がってて、話したんだろう。
「それで、我らが納める額を引き上げようと思いまして」
「え? ああ、そういえばそんなのも」
完全に忘れてた。
リョータの村は、今やゴミ処理で繁栄している。
この世界のゴミは放っておけばハグレモノ――モンスターになるから、ちゃんと処分しないといけない。
それを、俺はユニーク「モンスター」達の力を活かすために、彼らの自活の道としてセッティングした。
彼らが稼ぐ分を、一部上納金として俺に払う――という話があった。
すっかり忘れていた。
「いや、そんな事をしなくても――」
「今や――『リョータ』を119番目のダンジョンだと言う人もいます」
「へ?」
「リョータ様が作ってくれた私達の住処、ダンジョンっぽいあの建物」
「ああ」
そんな事もあったな。
「ダンジョンっぽく、すむのがモンスターばかりなら、ダンジョンだという人もいます。ダンジョン・リョータ、リョータ様はさしずめ119番目の精霊だと言う人も」
「そんな風に言われてたのか、それはちょっと面白いな」
金関係なく、うん、ちょっと面白い。
「そのリョータ様が困っているのなら、是非、力にならせてください」
「いやでも」
「私達は、リョータ様がいなければとっくにこの世にはいないのです。力にならせてください」
「……」
俺はちょっと苦笑いした。
部屋の大掃除をしたら、タンスの裏からお金が出てきた。
そんな、気分になった。