515.テルル
テルル地下二階。
マーガレットと一緒に降りてきた。
「ラト、ソシャ、プレイ、ビルダー」
「「「「はっ」」」」
マーガレットがしずしずとささやくように呼ぶと、四人の騎士が相変わらず、どこからともなく現われた。
能力が低下しているせいで、より一層その出現が唐突なものにみえた。
「しばらくリョータ様とダンジョン攻略をします、何があっても手出しはしないで」
「「「「承知」」」」
短く、迷いのない返事の後、四人は音もなく消えた。
「それでは、まいりましょう」
「うん、こっちから行こう」
テルルは一番通い慣れてるダンジョン。
目をつぶっててもその構造が分かる、迷いようがないダンジョンだ。
俺は先導して歩き出した。
少し歩くと、すぐにモンスターとエンカウントした。
眠たそうな目が特徴の、テルル地下二階のモンスター・眠りスライム。
「わたくしが行きますわ」
「え?」
完全に予想外の行動。
眠りスライムとエンカウントするやいなや、マーガレットは大剣を引きずるようにして、勇んで眠りスライムに飛び込んでいった。
のは、いいんだが。
途中でなんとつまづいて、ピッターン、という音を立てて、すっころんで顔から地面につっこんでいった。
……。
…………。
………………。
いきなりの事で動けなかった、転んだマーガレットも動かなかった、眠りスライムまで気持ち申し訳なさそうな顔をして止ったままだ。
「いたたた……」
沈黙を破ったのはとうのマーガレット本人。
彼女は起き上がって、赤くなった鼻を涙目でさすった。
ナチュラルに「女の子座り」てきなポーズになって、それで鼻をさすっている。
こんな状況だけど、それが無性に可愛く感じた。
眠りスライムも動き出した、突っ込んでいったマーガレットに体当たりした。
俺は銃を抜いた――がトリガーを引けなかった。
込めているのは通常弾。
それは一発で眠りスライムを倒せる物だったけど、能力が低下して命中率もてきめんに下がっている。
そして、平面的に見たとき、マーガレットと眠りスライムは半分ほど重なっている。
当ってしまうかもしれない。
一瞬それが頭をよぎって、トリガーを引けなかった。
「ひゃん! ……えいっ!」
マーガレットは女の子座りのまま、大剣をたてて眠りスライムの体当たりを防いだ。
その勢いでまたバランスを崩して、今度は尻餅をついた。
が、はじかれた眠りスライムは、彼女から大きく離れた。
「いまだ!」
俺は眠りスライムを狙って、連続で引き金を引いた。
二丁拳銃の通常弾フル連射。
十発を超える弾丸が眠りスライムを撃ち抜き、いつもと変わらないリョータニンジンをドロップした。
「ふう……大丈夫か?」
俺は慌ててマーガレットにかけよって、手をつかんでおこした。
「うふふ」
「どうしたんだ?」
なんだか嬉しそうなマーガレット。
「上手く行きましたわね」
「上手く行った?」
「はい。わたくしは剣士、リョータ様は銃。わたくしが前衛で、リョータ様が後衛。上手く機能して嬉しいですわ」
「ああ……」
なるほどそういうことか。
確かに……上手く行ったと言えば上手く行ったけど。
なんというか、マーガレットを前衛にするのはちょっと抵抗がある。
さっき転んだ事にしてもそう、彼女はあまり前衛に向いていない。
……まあ、今の彼女と俺はステータス的にはまったく同じ。
武器の違いでフォーメーションを決めるのは至極当然のことだ。
だから、俺は銃をしまった。
そしてグランドイーターのポケットから竹の槍を取り出した。
「それは?」
「マーガレットがこれを目にするのははじめてかな。俺が最初に使ってた武器だ」
「まあ、リョータ様がそれを?」
「ああ」
頷きつつ、竹の槍を見る。
前に折った後、修復させておいた。
その後すぐにハグレモノから銃を手に入れたから使わなかったが、エミリーからもらった最初の武器、ずっと大事に取ってあった。
グランドイーターのポケットを手に入れてからは特に、使わないけどずっと持ち歩いていた。
ある種のお守り、的な物だ。
「これで、一緒に前衛で戦おう」
「一緒に?」
「一緒に」
「……ポッ」
マーガレットは頬を赤らめた、なにやら嬉しそうだった。
「はい、一緒に頑張りましょう」
「ああ」
俺達は肩を並べて、再びダンジョンを歩き出した。
眠りスライムとエンカウントすると、俺が真っ先に飛び出した。
能力は同じ、武器も同じ接近用。
ならあとは、見た目の問題。
俺とマーガレット、どっちが先に突っ込んで何とかするべきかと聞かれれば、間違いなく俺だ。
俺が突っ込んで、倒せる時は倒す、倒せない時は明後日の方向に眠りの息を誘発して、一呼吸遅れてやってくるマーガレットが倒す。
急造にしては、いいコンビネーションだ。
それをマーガレットも思っているらしく、目があってまた嬉しそうに微笑まれた。
そうやって一緒に戦い続けた。
ドロップSとドロップAの二人だ。
倒すペースは前よりガクンと落ちるが、ドロップの品質は変わらない。
何より……ちょっと楽しい。
一緒に戦うのは楽しいし、たまにずっこけてしまうマーガレットのダメ可愛いも見てて飽きない。
これはこれでありかな――なんて思っていると。
「あれ?」
眠りスライムを竹槍で貫くと、なんとニンジンじゃなくて、ゲートが現われた。
「これは……なんでしょう」
「……入ってみる?」
「はい!」
力強く頷くマーガレットと一緒に、ゲートをくぐった。
景色が一変した。
見た事のあるタイプの景色、その部屋。
「ようこそ」
穏やかな声に振り向くと、そこに小さな――まるで座敷童のように小さい、可愛らしいおばあちゃん的な人が見えた。
「テルル、さん?」
向こうはにこりと、また穏やかに微笑んだ。
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