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513.ニホニウム、動きます

 夜のビラディエーチ。


「美味しいねこれ」


 行きつけの店に連れて来たさくらは、上機嫌でビールをぐびぐび飲んでいた。


「それはいいんだけど、飲んでよかったのかお前」

「大丈夫、うちの家系はみんな飲んべえだから」

「いやそうじゃなくて、コンプライアンス的なとかさ」

「何いってるのさおじさん」


 さくらはちっちっち、と指を揺らしてウインクまで飛ばしてきた。


「この作品に登場するキャラクターは全員十八才以上、だよ」

「それ逆にやばいだろ!」

「あたしもだから女子()生。学園生でもいいよ」

「いやいや……」

「というかさ、こっちの世界って何才から飲んでいいわけ?」

「そういえば……」


 そういった話をまったく聞いたことはないな。

 気になって、近くを丁度通り掛かった顔なじみの男店員に聞いてみると。


「お酒を飲むのに年齢がいるの?」


 という、むしろ「何いってんだお前」って顔をされた。


「ないみたいだね」

「ないみたいだな」

「そもそもあたし、おじさんに年齢教えたことなかったじゃん」

「え? あー……そういえば?」


 どうだっただろう、と首をひねる。

 聞いたような、聞いてないような……。


「まっ、どっちにしてもさ」

「ん?」

「郷に入っては郷に従う。こっちの世界でオッケーなら問題なし」

「うーん」


 俺は苦笑いした。


「おじさんもチーレムで問題なし」

「いやそれは問題あるよ!」


 俺は盛大に突っ込んだ。


「そう?」

「そうだよ」

「でもさ、こっちの世界の冒険者って、やっぱり男の人おおくない?」

「え? ああ、まあ。そうだな」


 何をいきなり、と思いつつも俺は頷いた。

 俺の仲間は女の人が圧倒的多数だが、一般的に冒険者といえば男の方が多い。


 「狩り」という行動の性質上、男の方がそれになりたがるのだ。


「冒険者ってやっぱり危ないよね。たまに死ぬ人いるし」

「まあ、な」

「だからこっちの世界では男女比は男の方がすくない!」


 びしっ! と指を突きつけてくるさくら。


「うん? うん……そうなる、のか?」

「つまりチーレムは自然な形! 女の人の方が多いなら世界トップクラスのおじさんはちゃんといっぱい養うべきだ!」

「そのための話かよ!」


 またまた、盛大に突っ込んでしまった。

 さくらは困ったもんだ。

 何かある度に「チーレム」と連呼するから困る。


 特に今は、ビールで酔っているせいか、普段よりもねちっこく絡んでくる。


「あたし間違ったこと言ってる?」

「理屈では間違ってないのが困りものだよ」

「だよね。なんかでみたもん。おっきな戦争の後で男が大量に死んだから一夫多妻にしないとむしろ社会がやばいって」

「はいはい。こっちの世界はそこまで男の人すくなくないからチーレムはいらないから」

「それじゃつまんない」


 さくらは駄々をこねた、話をそこそこあわせてスルーした。


 絡み酒だけど、さくらが楽しそうにしてることだし、これでいっかと思った。


「よし、じゃあこうしよう」

「ん?」

「あたしと勝負しよう。あたしが勝ったらチーレムやって」

「いやいや……負けたらどうするんだ?」

「そんなのしらなーい。はい、よーいスタート」


 さくらはおもむろにスケッチブックを取り出し、ジェネシスで書いた絵を具現化・召喚した。


 召喚されたのは、右腕。


 ぶっとい右腕「だけ」だった。


「なにこれ」

「腕相撲マシーン。ここでバトっちゃだめでしょ」

「ああ」


 何をされるのかともハラハラしたが、それくらいの分別はあったか。

 酒場で腕相撲くらいなら、まあよくあることだ。


「わかった」


 俺は右腕の肘をテーブルにのせた。

 さくらが召喚したまっちょな右腕とがっちり組み合った。


「いっくよー、レディ……ゴー!」


 パン! メキメキメキ。


 号令の次の瞬間、俺の腕があらぬ方に曲がってしまった。


 一瞬で腕相撲に完敗し、腕が折れてテーブルがその勢いでたたき割られた。


「え?」

「え?」


 俺もさくらもきょとんとした。

 俺は自分の折れた腕を見た。これはひどい。


 あまりの事で、マヒして逆に痛みを感じてない。


「ど、どうしたのおじさん」

「……ああ」


 俺は頷いた。

 グランドイーターのポケットからポータブルナウボードを取り出して、使った。


―――1/2―――

レベル:1/1

HP F

MP F

力  F

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 F

運  F

―――――――――


―――2/2―――

植物 S

動物 S

鉱物 S

魔法 S

特質 S

―――――――――


「おじさん! ステータスが」

「やっぱり来たか」

「やっぱりきたかって……え? どういうこと?」

「この一連の流れで、一つの可能性があったんだ。予想はしてたけど、あたっちゃったな」

「だからどういうことなのさ」

「俺の戦闘能力は全部、ニホニウムのダンジョンでドロップした『種』であげたものなんだ、つまりニホニウムのもの」

「精霊の……」

「そういうことだな」


 一連の、精霊の反乱。


「予想してたなら、なんで何もしなかったのさ」

「したよ? むしろ誘った」

「え?」

「フェッルムの一件のあと、むしろそうなるように促した」

「なんでさ」

「これもたしか教えてなかったんだけど、ニホニウムって『人を苦しめたい』って思ってるんだ」

「え? それって精霊としての……?」

「そういうことだ。つまりこれはバナジウムの15億と、事実上同じことなんだよ」


 俺はそう言いながらポケットをまさぐった。


「ああ、ニホニウム関連の特殊弾も全部なくなってるな」


 回復弾を使おうとしたが、それもなくなっていた。

 ニホニウム地下三階のマミーからドロップする回復弾、それがなくなっていた。


「これはこまった」


 俺はつぶやいた。

 予想していたとは言え、確かに困った事態だ。

 予想していた分、落ち着いてられるだけの話。


「……はあ」

「どうしたんだ? そんなでっかいため息をついて」

「おじさんってすごいよね。それを予想して、そのうえで自分に来るように仕向けたんだから」


 さくらはあきれ半分、感心半分の目で俺を見つめてきた。

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