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509.尻拭き大喜利

「フェッルムの噂、本当だったみたいです」


 夜のサロン、仲間達が集合するくつろぎタイム。

 普段はまったりわいわいな空気なのだが、それに反して、エルザは深刻な表情で切り出した。


 すると、冒険者組も商人組も、そして精霊組も全員がだまって、エルザを見つめた。


「ってことは、紙全般が高騰する、で確定なのかな?」

「間違いなくそうなります」

「そっか……」

「過去の例をしらべて、どうなるのかを大体計算してみました。イーナ」

「複数の買い取り屋で意見も交換し合って、大体の数字が出たわ」


 複数の買い取り屋って、大事になってるな。


「象徴的なのが……トイレットペーパーが1ロール2000ピロくらいまであがる話ね」

「高っ!」

「えええ!? そんなに?」


 声をまず上げたのは俺とさくらだった。

 日本人である俺達。

 トイレットペーパーなんて安いもんだし、公衆トイレに行けばただで使えるものだという感覚だ。

 それが、1ロール2000ピロ()


「つくづく、ダンジョン次第なんだなあ、この世界の生活って」

「あんなにいらないでしょって思ったけど……ありがとねエルザ」


 さくらはエルザにお礼を言った。

 オイルショックそのものを知らない(それを知ってまた俺はカルチャーショックをうけた)彼女は大量のトイレットペーパーを見て大げさと言ったが、1ロール2000ピロと聞いて感謝するしかない格好だ。


「あっ!」

「どうしたんだ?」

「あたし、ジェネシスには紙が」

「それなら大丈夫です。一年分は確保してます。さくらさんの分は」

「本当に!? ありがとう。お金は後ではらうね」

「はい」


 自分のピンチに気づいて青ざめたさくら、それを先回りしたエルザ。


 さくらはエルザに感謝して、それで仲がより深まった。


 俺は振り向き、一人我関せずニンジンをかじっているイヴに水を向けた。


「イヴも気をつけてな」

「うさぎ?」

「ああ、カリホルニウムと今毎日あってるんだろ? あそこが一番、なにかあったら大変なところだから」


 何せ貨幣を産出する場所だ。


 新しい金がまったく生産されなくなったら、商売が止ってしまう。

 物々交換なんかでしのぐ事も不可能ではないが、混乱は他のダンジョンの比ではない。


「それなら大丈夫、うさぎとはソウルフレンドだから」

「ソウルフレンド?」

「今日もいっぱい、低レベルの悪口をいいあってきたから」

「その『低レベル』は特定の誰かをさしてるわけじゃないよね!?」


 盛大に突っ込んだ。

 自分の知らないところで悪口で盛り上がられるのは複雑な気分になってしまう。


 が、まあ。


 それくらい仲がいいんなら、まあ大丈夫か。

 自分のこだわりを強く守る、それ以外はどうでもいい。


 精霊に共通している特性で、イヴはそれによく似ている。

 大丈夫だろう、と俺は思った。


「しかし、長引くとあれだよな。いろんな紙をエルザのおかげで大量にストックしたけど、うちは大所帯だから、いつまでも持つって訳にもいかないしな」

「それなら大丈夫、あたしにまかせなよ」

「アウルム? 任せなってどういう事だ? 、黄金をだして紙を買ってくれるってことか?」

「そんなのまわりくどくて面倒くさいじゃん。こうすればいいじゃん」


 アウルムが手をかざして。

 すると、彼女の手の平に、澄んだ黄金色の、平べったい何かが現われた。


 まるでA4の紙にも見えるそれは……


「……なに、これ?」

「あたしはアウルムだよ? 黄金に決まってるじゃん」

「黄金」

「金箔ってやつね」

「きんぱく」

「紙がなければ金箔でふけばいいじゃん」

「なにアントワネットだよ! まだ紙幣燃やして明かりにする方がましだわ」


 金箔でお尻って、お尻って。


 どんな超成金だよ。


『どうだ尻が綺麗になつたろう?』


 脳内に正気を疑う台詞がセルフ再生された、いかん。


「メラメラが、紙が欲しいなら出すって」

「ありがとう! でもそれはストレートにだめだ!」


 メラメラ――フォスフォラス。


 紙幣をドロップさせるフォスフォラスの精霊。

 確かにそれも紙だが、やっぱりヤバイ。


「……(ぐいぐい)」

「ん? どうしたバナジウム」


 俺の裾を引っ張ったバナジウムは、彼女のダンジョンのモンスターである綿毛を召喚した。

 それが弾けて、少量の水が噴水のように上向きに噴き出された。


「ん? えっと、どういう事?」

「……(ちょいちょい)」


 バナジウムは俺のお尻を指した。

 えっと……。


「ウォシュレットしてくれるってことなんじゃないかな」


 さくらが解説した。


「え? ああお尻洗ってくれるの?」

「……(こくこく)」


 バナジウムは何度も頷いて、「フンス!」って感じで鼻息を荒くした。


「ありがとうな」


 俺はつっこまず、バナジウムの頭を撫でた。

 バナジウムは嬉しそうに俺にしがみついてきた。

 いやつっこみたいんだけどね、精霊にウォシュレットをさせるなんて! とかなんとか。


 でもバナジウムはまだ、褒めた方がいいから。

 若干甘やかしてるけど、彼女はまだ、そうした方がいい。


「あ、アルセニックさんに頼めば、お花をいっぱいくれると思います。匂いもそれで」

「ありがとうエミリー、でもそういうことじゃないんだ」


 とんでもない話が続出した、そもそも精霊本人がそれをするからトンでもない度に拍車をかけている。


 精霊達本人が参加する、大喜利。


 精霊でいかにお尻を綺麗にする大喜利。


 最初の話から盛大に脱線して、夜のサロンはそんなおバカな話で盛り上がっていった。

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― 新着の感想 ―
ほのぼのしてて良いなぁ
[一言] 一番深刻かつ汚い事情にチート能力試行錯誤するのおもしろ
[良い点] バナジウムダンジョンに住んでる人にしか役に立たない内容だけど、精霊たちが大真面目に言ってるのが楽しくて、思わずふいてしまった・・・
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