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503.理想のダンジョン

 カリホルニウムから屋敷に戻ってきた。


 サロンにはまだイヴがいて、幸せそうにニンジンをかじっていた。


「ただいま」

「ん」


 とくに興味がないって感じで、イヴは顔も上げずにニンジンをかじり続けていた。


「カリホルニウムにいってきた。確かにあれは俺にはクリア不可能だ」

「だからそういった」

「大ダメージ無効か。通常弾すら無効化されるんなら俺にはもうどうしようも無いな。まあ、拘束弾は効いたから、サポートは出来るんだけど」

「低レベルのくせに生意気だからこういうことになる」


 イヴは今度こそ顔を上げて、ちょっと満足げに得意げな顔をした。


「一応聞くけど、あれを撤廃ってのは――」

「やだ」

「だよな」


 予想はしていたから俺は食い下がらなかった。

 代わりに――。


「別のことを頼みたい」

「別の事?」

「毎日のニンジンの量を倍にする」

「なんでも――やめるのはダメ」

「別の事だって言っただろ? まあ、聞いてみてから判断するといいよ」

「……言ってみる」

「大ダメージを、モンスターにも――ああ、モンスターが冒険者に攻撃するって意味でね。そっちも大ダメージ無効にしてくれないかな?」

「……なんで?」

「カリホルニウムにはこういうといいよ。『今後は弱い冒険者が来るようになる。こうしないと一瞬で倒されてばかりで、次第に冒険者がまったく来なくなる』」

「むっ……」


 イヴの表情が変わった。

 その変化で、彼女がカリホルニウムと思考が相当のレベルでリンクしているのが分かった。


 だから俺は更に続ける。


「それに、大ダメージ無効の方が、チクチクと長く弱い奴らを苛められるぞ」

「なるほど」


 イヴは小さく頷いた。

 そして顔を上げて、俺をじっと見つめながら。


「低レベルのメリットは?」

「メリットというか、可能な限りの挽回。このままじゃ、弱い冒険者が一瞬で倒されてばかりで、ダンジョンとして事実上死ぬから」

「なるほど」


 今度は深く頷くイヴ。


 まあ、俺の拘束弾が生きてるように、高レベルがやってきて、拘束に専念させる、というのができるからちょっと形態が変わるだけ……というのはあえて言わないでおいた。


「ニンジン倍?」

「ニンジン倍」

「分かった、言ってくる」


 イヴは残ったニンジンを一気に飲み干して、立ち上がってサロンから出て行った。

 カリホルニウムのところに行くんだろう、俺はそのまま見送った。


 そして、俺の説得通り。

 次の日から、カリホルニウムは敵味方問わず、大ダメージ無効になった。


     ☆


 カリホルニウムで、泥仕合が繰り広げられているのを、俺とセルが離れた場所から眺めていた。


 冒険者は緊急に招集したレベル1の駆け出しばかり。

 モンスターは券で呼び出した、金をドロップする特殊モンスター。


 戦いはまさに泥仕合、そうとしか言い様のない物だった。


 駆け出しのレベル1冒険者達の攻撃は弱く、慣れてないこともあって当らない事もしばしば。

 そもそもが攻撃するまでにもたつくことも多い。


 とてもじゃないが、ダンジョンにいてはいけないタイプだ。

 通常ならば他の冒険者にも迷惑をかける――のだが。


 ここに限って言えば問題なかった。


 モンスターの攻撃が全く効いていないからだ。


 大ダメージ無効。


 本来のゴブリンの攻撃がギリギリで通るくらいの設定は、召喚モンスターの攻撃を全て無効化した。


 片方は1ダメージずつ、片方は完全に無効化という。


 見ていて、手出ししたくなるうずうずする戦いの光景だった。


「さすがサトウ様だ」

「いや、これはあくまで偶然だ」

「ご謙遜召されるな。その話では、サトウ様の機転による軌道修正が大きい」

「まあ、な」


 確かにそうなのかも知れない。


「これは究極の姿だ」

「究極?」

「冒険者に一番大事な事は安定なのだ」

「ああ、そうだな」

「この状況なら、貨幣の生産には万に一つの事故もない。ダンジョンマスターが出たとしてもそれは同じ。時間はかかるが、レベル1を大量投入して数で押し切ればいい」

「そうだな」

「もっとも、理想的な形になったよ」


 セルは俺を向いて。


「さすがサトウ様だ」


と、尊敬した目で言ってきたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんで自分で「一緒にいられない」って言ったくせにイヴは拠点にいるの?
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