500.低レベルきらい
「はい、ここからおじさんの番」
「ああ……そうだな……」
さて何から聞くべきか……と考えて、いくつかがあるが、やっぱりここは――
「なんで弱い冒険者を狙うんだ?」
やっぱり、これかなって思う。
グランドイーターのポケットの中に券があって、それの事も気にはなる。
でもやっぱり精霊と直にあった以上、他とは違うその行動、こだわりの内容を聞かなきゃと思った。
「……」
カリホルニウムはぶすっとした。
唇をこれでもかってくらい尖らせて、そっぽ向いている。
まるで――
「おこちゃま」
「しっ」
ぼそっとさくらがつぶやいたから、慌てて唇に指を当てる古典的なジャスチャーをした。
俺も同じ感想を抱いたが、のど元まででかかったところでグッと飲み込んだ。
さくらのそのつぶやきが耳に届いているのか、いないのか。
カリホルニウムは特に変化はなく、同じ感じで横目で俺達を睨んでいた。
「えっと……よかったら聞かせて欲しいな。もし何かがあったら力になれるように頑張るし」
「力?」
「うん。アウルムとか、ニホニウムとか、バナ――エリスロニウムとか。いろんな精霊の話を聞いて、一緒に悩みを解決してきた。だから」
「……」
さっきまでとうってかわって、まっすぐ俺を見て、ぽかーんとなってしまうカリホルニウム。
「うそだ!」
「いや、本当だ。必要ならみんなに会わせて証明することができる」
「会わせる……!? お前、何者なんだよ」
「ただの冒険者だよ。ああ、ちょっと他の人よりも仲間が多いかな」
「おじさんけーんそーん。精霊チーレム作って精霊を孕ませたくらい言ってもいいのに」
「はら――それはさすがに違うから!」
カーボンとユキの話なんだろうけど、それはちょっと曲解というか、拡大解釈というか。
「――ゴホン! そ、そういうわけだから、何かあったら聞くし、場合によってはもっといい方法を思いつけるかもしれない。やりたいことに関しての」
「子供電話相談し――」
「シッ!」
再びさくらの口を塞いだ。
相手が相手だ。
せっかく言葉を選んで「相談」とか「悩み」とかよけて向こうにメリットある言い方をしてるんだから、刺激されたらたまらない。
「……」
俺の気配りが功をそうしたのか、カリホルニウムは何も言わないが、見るからに態度が軟化した。
もう一押しすべきか、と悩んでいると。
「ふん、お前は人間にしては物わかりがいいな。特別に教えてやろう」
「なま――んぐっ!」
三度茶々を入れようとするさくら、今度は先手を打ってがっつり口を塞いだ。
そして、カリホルニウムが語り出す。
「きらいなんだよ、弱い奴らが」
「きらい?」
「そうだ。なんで弱いままで甘んじるんだ? 堕落して安眠をむさぼるだけの奴らなんて、見ていてイライラする!」
「だったら見なきゃ――むぐっ!」
またまた突っ込もうとするさくら。
正直それは俺も少し思ったけど、話がややっこしくなるから止めておいた。
「ということは……………………きらいな奴らの根性をたたき直してる、とか?」
「そんなんじゃねえよ」
俺が頑張って、頭をひねってひねって選んだ表現。
カリホルニウムはそういうが、まんざらでもなさそうだった。
「本気できらいだ。そういうのを呼び寄せて、この世から全部消し去る為にやってる」
「そうか」
「まっ、そういう風に思われてもしかたないかもしれねえけどさ」
やっぱり上機嫌だった。
上手く「はまって」くれた。
向こうの意見を否定しない、肯定した上で違う解釈をして、自分から話すように仕向ける。
ヤバイ取引先から上手く要件とか仕様とか聞き出すために身につけた方法だ。
さて、ここからどうするか。
聞き出したはいいが、カリホルニウムのそれは根深いと感じた。
思春期にありがちなパターンだ。
指摘すればするほど反発する、下手に自覚されるとかえって意固地になって話がこじれる。
そういうタイプに感じた。
解決は……少なくとも短期間では難しいだろう。
「………………ちょっと待っててくれないか?」
「は?」
「すぐ戻ってくる」
「戻ってくるって、人間が気軽にここに――」
ある仲間の顔を思い出した俺は、ダッシュでその場から離れて、彼女を探しに行った。
☆
十分と経たずに、今度は転送部屋であっさりこれたカリホルニウムの精霊部屋。
部屋の中は不穏な空気に満ち満ちていた。
カリホルニウムがかんしゃくを起こした感じでさくらを睨んでいて、そのさくらは俺を見た途端「てへっ」と可愛らしく舌をだした。
結局――
「やっちまったのか」
「ごめんして」
「むぅ……」
さくらを置いていった俺のミスでもあるから、強くはいえなかった。
予想外の悪い空気、大丈夫かなと思いつつ、俺は連れて来た彼女に振り向いた。
自前のウサミミに、バニースーツ。
キャロットジャンキー、イヴ・カルスリーダー。
「お願い」
「まかせる。ウサギはニンジンのためなら悪魔に魂を売れる女」
「その言い方だとかっこいいな」
微苦笑しながら、イヴを送り出す。
カリホルニウムの前に立つイヴ。
精霊とウサギ、互いに見つめ合う。
さて、どうなるか――とか、その先の心配とかまるまる杞憂に終わった。
「運命の人」
「この刻を待っていた」
二人は、大時代的な台詞を言い合いながら、ガッチリと握手を交わした。
気があうかなと思って連れてきたけど、予想以上に――なにも喋らない内からものすごく意気投合したみたいだ。
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