498.魔法無効化空間
ゴブリンが一掃されて、さくらが召喚したヤツも消えた。
改めて、カリホルニウムに向き直る俺達。
「ふ、ふん。やるじゃないか」
「なんかそれさっきも聞いたね」
「うるさい! 人間の分際で」
「それもさっき聞いたっけ」
「泣いて謝るならなら今のうちだぞ」
「えっと……」
さくらはカリホルニウムを指さしながら、俺をみた。
どうするのこれ。
って、言われているような気がした。
実際さくらはそんな気持ちなんだろう。
召喚した大量のゴブリンがなすすべもなくやられたのに、それでも強気の態度をくずさないカリホルニウムを素直になれない子供かなんかのようにみえているんだろう。
実際、俺も似たような気持ちだった。
「ふん! お前の弱点はもう見切った」
「台詞だけきくと格好いい」
「ふん!」
カリホルニウムは鼻をならして、手をかざした。
再び、ゴブリンの大軍が呼び出された。
「こりないなあ……もっぺん出番だよ、小鬼殺しの人」
「やめんかその呼び名は!」
脊髄反射で突っ込んだのは、俺もどこかで、さくらの勝利を確信しているからだ。
まったく変化していないゴブリンの大軍。
さっき見せてもらった、さくらの「ノリ」によるゴブリン特効の召喚魔法。
少なくとも目の前のゴブリンは問題なく倒せる。
そういう未来予想図が見えた。
が、それは現実の物にはならなかった。
ジェネシスを唱えたさくら、しかし召喚は具現化されなかった。
シーン――とはならなかった。
止ったのはさくらだけ、ゴブリンの大軍は一斉に俺達に押し寄せてきた。
「さくら!」
名前をさけびつつ、だきしめて横っ飛び。
一斉に襲ってきたゴブリンの先陣の攻撃を躱した。
「どうして……ジェネシス!」
もう一度魔法を唱えるさくら。
ネタではなく魔法名を唱えたのは、本人の焦りがダイレクトに出ている。
「召喚出来ない……ど、どうなってるの?」
「MPは?」
「全然大丈夫、あと十回はいけるはずだよ」
「となると……むっ」
「どうしたの?」
「この頭痛は……」
「頭痛……あっ、そういえばなんかジクジクする……」
パッとカリホルニウムを見る、彼はにやりと口角をゆがめた。
「そうか、そういうことか」
「どういうことなの?」
「シリコンだ」
「偽乳のこと?」
「そっちじゃないから! 元素番号14番、Siのシリコン」
「ああそっち……そういえばテルルにそんなのがあったね」
「そう。シリコンのモンスターに魔法はまったく効かない。そういう風に――多分精霊が仕組んだ。それとにたことを魔力嵐でやったんだ」
「魔力嵐?」
俺は一瞬きょとんとした。
当たり前の事を聞き返されると一瞬だけ思考が止ってしまう。
「そうか、さくらが来てからまだ一度もそれが来てなかったっけ」
「どういうものなの?」
「魔力嵐って……天気みたいなものだ。それが来てるときはあらゆる魔法がつかえなくなる」
「あー……なーる」
さくらは瞬時に納得した。
俺と同じ転移者で、同じような知識を持っているだけに、現状をすぐに理解した。
「効果的だ。さくらのそれはチート過ぎるって言っても、結局の所は魔法」
「魔法無効化だとあっさり破れるもんね。って、そもそも召喚出来ないから破るってのもちょっと違うかな。で、どうするおじさん」
「どうしようか」
さくらを下ろして、考える。
完全に戦力外になったさくら。
こうなったら安全をとって一旦かえした方がいいのかもしれない。
そう思った俺だが、ここで本日二つ目の想定外の事がおきた。
なんと、再び襲いかかってきたゴブリンは、さくらに目もくれずに、俺に集中攻撃をかけてきた。
ちょっと身構えたさくらが肩透かしを食らうほど、綺麗に俺だけを狙ってきた。
俺は捌き、反撃、さくらから引き離すように距離を取る。
すると、ゴブリンは完全にこっちに向かってきた。
「これは……」
「あっ」
「さくら?」
「あれじゃない? ほら、おじさんのレベル」
「……あっ」
ハッとして、カリホルニウムを見た。
さっきよりも更にニヤニヤして、俺を見る。
カリホルニウムの特性の一つ。
レベルの低い冒険者を狙う事。
能力は最高だけどレベル1の俺。
ゴブリンは、そのレベル1を狙ってきた。
召喚獣がいるときはそんな動きはしなかったのだが、俺とさくら、人間だけになった途端に俺だけを狙うようになった。
「もしかしてさっきのって」
「うん! この部屋の入り方もあってさ、おじさんよりレベル低くした」
「なるほど」
更にゴブリンの攻撃をよける。
距離を取る、完全にさくらからゴブリンをとおざけた。
百体を超えるゴブリンが、カリホルニウムのにやけ笑いとともに襲いかかってくる。
「……」
俺は無言で銃を抜いた。
弾を込めて、先頭のゴブリンをヘッドショットで一掃。
「なっ!」
愕然とするカリホルニウム。
魔力嵐でも、問題はない。
むしろ、俺を狙ってくる分には、何にも問題はない。
俺は、構えた二丁拳銃の超精密乱射で、あっというまにゴブリンを一掃した。