494.さくらの召喚
「さすがサトウ様、まったくその通りだ」
テルルダンジョン協会の会長室。
向き合ったセルは満足げに頷いた。
「レベル1とFファイナル、パーティーにどっちかがいることがカリホルニウムの入場条件だ」
「だから俺に頼んだのか」
「サトウ様の存在はまさしく天啓とも言うべきもの。サトウ様と出会い、決意したのだ」
それは言い過ぎかもしれないけど、言いたい事は分かる。
ダンジョンの事を解決するにはある程度の能力が必要だ。
レベル1と、Fファイナル。
レベル1で高ステータスの可能性はあるが、そもそも最低ステータスを意味するFファイナルに強者は存在しえない。
レベル1で全能力MAX(かつ限界突破)の俺の存在を知って腹を決めたというセルの話は分かる。
「しかし、レベル1とFファイナル、しかもそれらを集中攻撃か……。精霊の性格がなんだか見えてくるな」
「おそらくサトウ様の推測通りなのだろう」
セルは真顔で頷いた。
「サトウ様は歴代最高の頻度で精霊と遭っている。余もそれで精霊と接する機会が増えた。精霊とは、存外に人間くさく……子供なのだとおもった」
「うん、それであってると思う」
良い意味で、と思ったがあえて付け加えなかった。
セルも悪い意味で言ってる訳ではないと分かったからだ。
「となると、精霊と実際に会ってお願いするしかないか」
「そう思う」
「わかった、やってみる。まずはカリホルニウムのレアモンスターと遭遇するところからだな」
「いないのだ」
「ん?」
「カリホルニウムに、レアモンスターは存在しない」
「存在しない?」
どういう事だ? って目でセルを見る。
「正しく言えば『だれも見た事はない』という事になるのだろうか」
「なるほど……ちなみにダンジョンマスターは?」
「それは普通に存在する」
「……わかった。それも含めて任せてくれ」
☆
「基本的に存在するのじゃ」
プルンブムダンジョン、精霊の部屋。
この日二度目に訪ねた俺をプルンブムはうれしそうに出迎えて、質問に快く答えてくれた。
「やっぱりいるか」
「うむ。とくに妾たちの元に繋がる最下層のレアモンスターは、基本存在している。人間と会いたいと思う精霊ならば出現度を上げる事もするだろうな」
「……なるほど」
「今の間はなんじゃ?」
「バナ――エリスロニウムの事を思い出した。なんだかんだで俺がさっくりと彼女の元に辿り着けたのは、心のどこかでやっぱり人間と接したいという思いがあったんじゃないかな、ってね」
「なるほど」
「まあ、推測だけど」
一方的な決め付けかもしれないし、バナジウムに関しては当面は現状のままを維持しよう。
「話を聞くに、連中がカリホルニウムを管理してから数十年が経つ。その間にまったくレアモンスターが出ないというのは、精霊があえて止めていると考えるべきじゃろうな」
「レアも出来るのか?」
「うむ」
プルンブムが頷くのと同時に、俺の背後に新しい気配が生まれた。
完全に会話中のオフモード、反応するのが遅く、振り向いた時にはもういなかった。
「……なるほど」
プルンブムの言いたい事は分かった。
「どうしても出さなきゃいけない時も、人に見られない所で出して、即消せばいいのか」
「ご名答じゃ」
なるほどな。
その程度のことなら、ダンジョンの精霊からすれば造作も無いことだろうな。
「わかった。ありがとう」
「また聞きたいことがあったら、遠慮無く来るのじゃ」
「ああ」
☆
「というわけで、カリホルニウムに張り込んで気配を察知しようと思う」
夜のサロン、俺はアリスに事情を説明して、頼み込んだ。
「一瞬とはいえ、気配は感じられたんだ。まずはそういう状況の有無を確かめたい」
「ふむふむ、それであたしとリョータが一緒に張り込むってわけね」
「ああ。俺はまだモンスターの気配を完全につかめるって訳でもないけど……ダンジョンの中で鍛えつつやっていく。だからメインはアリスにかかってる」
「わかった、任せて。どんな小さな気配でも見逃さないよ」
「ねえ」
アリスとの話がまとまったところで、さくらが話しかけてきた。
「どうした?」
「それ、あたしに考えがあるんだけど」
「考え?」
「ほら、ゲームってさ、その場に突っ立ったままモンスターを呼べる特技とかあるじゃない?」
「ああ、レベル上げとかにあると便利だな」
「そういうのをやってみたのね」
さくらはそういって、ジェネシスを唱えた。
彼女が持っていたスケッチブックから箱が現れ、その箱がはじけ飛んだ。
箱の中から、綿毛が現れた。
「……!」
離れたところでくつろいでいたバナジウムがぱっと立ち上がるくらい驚いた。
新屋敷、バナジウムダンジョン。
暮らしやすいように、バナジウムには普段モンスターの出現を抑えてもらっている。
なのに、さくらは無理矢理呼び出した。
精霊の制御を抑えて無理矢理呼び出したのは、バナジウムの反応を見れば一目瞭然だ。
それを、さくらも見ていた。
にこりと微笑んだ。
「いけるっぽいね」
「ああ」