492.ゴブリンハーレム?
プルンブムのところから戻ってきて、そのまま転送部屋で次のダンジョンに飛ぼうとした。
「おじさんじゃん。どこのダンジョンにいくの?」
タイミング良くさくらと出くわして、俺は転送部屋の操作を中止した。
「カリホルニウムに。なんだかんだで止っていたから、攻略の再開をと思ってさ」
「そうなんだ。私も一緒に行っていい?」
「一緒に?」
さくらは持っているスケッチブックを見せるように掲げた。
「いろいろ試したいことがあってさ。おじさんといっしょなら安心なんだよね」
「なるほど」
そういうことなら断る理由もない。
さくらは仲間だ、それに同じく日本からの転移者だ。
そういう関係もあり、この世界で安定志向が染みついたし、俺が同行して安全に力のテストをする、ということにはなんの異論も無い。
「わかった、一緒に行こう」
「ありがとっ」
さくらは屈託のない笑顔で近づいてきて、俺は転送部屋を操作して、一緒にカリホルニウムに飛んだ。
植生で壁を作った巨大迷路のような見た目のダンジョン、カリホルニウム。
「なんか面白いね」
「そうか?」
「うん――ゴブリンじゃん!」
早速モンスターが現われた。
カリホルニウムのモンスター、ゴブリン。
それが一二三――全部で四体、徒党を組んで現われた。
さくらが「いろいろ試したい」といってついてきたから、俺はすぐには攻撃はせず、いつでもフォローできる態勢だけ整えて、静観することにした。
さくらがジェネシスで絵を召喚する――かと思えば。
「本物のゴブリンだ! すっごーい!」
興奮していて、攻撃どころではない。
「やめて! 私に乱暴するつもりでしょ! 人気ラノベみたいに!」
「たのしんでるな」
「だってゴブリンだよ!? スライムも出会った時はすごくワクワクしたけど、ゴブリンの方が断然今熱いよ」
「熱いの内訳は聞かないでおくよ」
というかもう言っちゃってるしね、さくら本人が。
「それよりも対処した方がいいぞ。興奮するのはいいけど、あれはれっきとしたモンスターだから」
「だね。senkaは見る物であってされるものじゃないしね」
「なんか名言っぽいのでたな」
さくらはスケッチブックを開いて、ジェネシスをとなえた。
「黄金の右足!」
ゴブリンの一体の上に文字通り黄金色をした巨大な右足「だけ」が現われて、ゴブリンをプチッ、と踏みつぶした。
ゴブリンを踏みつぶした直後、足は消えた。
単発の召喚魔法か――と思ったら。
「黄金の左足!」
「黄金の右腕!」
「黄金の左腕!」
さくらは立て続けにジェネシスを唱えた。
その都度言葉通り、巨人を想起させるような黄金色の体の一部が召喚されて、ゴブリンを一撃で葬った。
「うん、いい感じ」
「いやいや、ありがたみがないだろそれ。というかそこまできたら黄金の全身でいいんじゃないのか?」
「ノンノンノン。この後に控えてる黄金の頭脳を召喚して、五部位全部揃ったことによって封印されしエクゾ――」
「オーケーそこまでにしようか」
ケンカを売るには敵は強大すぎる。
「おじさん、私が冗談いってるって思ってるでしょ」
「え?」
「ほんとうだよ。五体で召喚したらものすごい強いのに合体するんだから。ちゃんとあれみたいに」
「……ああ、そうか。ジェネシスはそういうものだったっけ」
自分の突っ込みが無粋に思えてきた。
ジェネシスの特性、それは使用者が自分の書いた絵が傑作だと思えば思うほど、召喚した時の強さが増していく物だ。
さくらとの付き合いはまだ短いが、おおよその性格は分かってきた。
そのネタとノリの方が強いキャラをかける、といわれるとものすごく納得する。
「というかおじさん、ここでもチーレムなんだね」
「は? 何いってるの?」
「だって、さっきからゴブリンがずっとおじさんばっかりねらってるもん」
「え?」
「気づいてなかったの?」
「……本当に?」
さくらは深く頷いた。
まったく気づかなかった……。
いや、言われてみればそうだったかも?
さくらが瞬殺したからわかりにくかったが、たしかにゴブリン達はさくらよりも俺を狙っていたかも?
「ほら、またきた」
思考から現実に戻る。
さくらのいうとおり、更に数体のゴブリンが現われた。
さくらは手出しをしなかった。
そのかわりそっと俺から離れた。
立ち位置をはっきり分けることで、ゴブリンがどっちを狙っているのかをはっきりする狙いだ。
現われたゴブリンは五体――なんと全部がこっちに向かってきた。
「ほらね」
「ほんとだ……」
倒さずに、動きで翻弄する。
さくらに目配せで了解をもらってから、彼女にターゲットをなすりつけるように動いてみた。
しかしゴブリンは一直線に俺を狙ってくるだけ、さくらにはまったく目もくれない。
「やっぱりチーレムだ。だめだよおじさん、ゴブリンはさすがにみんなが可哀想」
「いやいやいやいやいや」
そういう風に思われる俺が一番かわいそうだ。
さすがにない、ゴブリンはない。
「なんで俺が狙われるんだ」
「こういう時、ゲームとかだと……」
さくらはつぶやきつつ、思案顔になる。
なんとも頼もしかった。
これまでは「こういう」思考は俺だけだった。
それがいまは、同じ考え方が出来る人がふえた。
「レベルか」
「能力か」
俺とさくらはそれぞれ予想を立てて、同時にうなずき合った。