489.チーレムのサポーター
「そういえば、なんでおじさんは毎日プルンブムに会いに行ってんの?」
夜のサロン。
特筆する事もない会話の流れから、さくらがそんな事を聞いてきた。
「なんでって?」
「いやさ、なんでその人――精霊だけど――ここにこないのかって事。ほら――」
さくらは少し離れたところで固まっている、アウルムら精霊組を指した。
精霊であるアウルムとニホニウムとバナジウムを中心に、東方の巫女であるサクヤとユニークモンスターのミーケ、そして一言ではとてもまとめづらいユキなどが固まっている。
「精霊だって、おじさんが色々やってここに来てるのもいるじゃん。毎日会いに行くくらいならここに連れてきた方が楽なんじゃないのかって思ってさ」
「ああ、その事か」
さくらは最近ファミリー入りした。
それどころか、この世界に転移してきたのもごくごく最近だから、プルンブムの一件はまったく知らない。
「プルンブムは……アウルムと少し似てるんだ」
「なになに、あたしがどうしたの?」
耳ざとく聞きつけて、アウルムがこっちにやってきた。
精霊とは言いながら、頭に悪魔を彷彿とする角を生やしていて、服も黒のゴスロリに近い物を愛着しているため、見た目はまさしく悪魔な少女。
一方で人なつっこく、屈託のなさはアリスに通じるところがあって、それもあって互いに意気投合しているのがアウルムだ。
「アウルムとプルンブムが似てるって話をしてたんだ」
「その話ね。うーん、あたしとって言うより、あたしらみんなそうなんだけどね」
「それはそうだな」
「??? もうおじさん、こっちが質問してるのに二人だけで話を完結させないでよ」
「ん? ああごめんごめん。えっと……どこから話せばいいのか。まずざっくりとまとめると、精霊はみんな、自分のこだわりを持ってるって事だ」
「こだわり?」
「そう、しかもそれが強い。たとえばご飯が好きな人がいたとしてさ」
「ふむふむ?」
「そういうのが精霊だと、365日白ご飯しか食べないんだ」
「ほえ?」
「他の物はもちろん食べない、それどころかおかずも、ふりかけも塩もまったく使わない。本当に『ご飯だけ』しか食べないんだ」
「へえ……精霊みんなそうなの?」
「ああ」
俺ははっきりと頷いた。
「アウルムは外を見たい」
「うん」
「テネシンはツンデレでとにかく自分のダンジョンに人を入れたい」
「ツンデレいるの!?」
そこに食いつくのか。
「カーボンは『試練』の中にいたい」
いつもサロンのちょっと外、入り口の影から、巨○の星の如く俺を見つめている。
「そういう感じで、精霊はみんな何かしら強いこだわりがあるんだ」
「そっか……プルンブムの場合、おじさんに会いに来てほしいってこと?」
「そういうことだ」
プルンブムの場合、昔「また会いに来る」って約束した人間がそれを守れなかったのが理由で、それ故に「会いに来てほしい」ってなってる。
「そっかー。なんで毎日会いに行かなきゃって不思議に思ってたけど、そういうことだったんだ」
「そういうことなんだ」
「うんうん、それなら納得かな」
「納得?」
話の流れから、「納得」がプルンブムにかかっているのが普通だが、さくらの言い方ではなにか別の意味があるように聞こえた。
「何に納得なんだ」
「これ」
さくらは指先を揃えた手の平を立てて、手の甲を見せてくれた。
もっと正確には、つけている指輪を強調するような感じで手の甲を見せてくれた。
「この指輪さ、アウルムちゃんとかは全然欲しがってないよね」
「ほしくないねー」
「カーボンちゃんは欲しそうな目をしてるけど、もらえてないのを興奮してるって目だし」
「そう聞くと危ない人だから止めたげて」
いや本当に。
さくらの指摘通り、「もらえてないこの試練ハァハァ」かもしれないけど、そうだとはっきり言い切っちゃうのはかわいそうだと思った。
「……」
「ん?」
さくらは何故かちらっと、離れたところにいる別のグループを見た。
エルザとイーナが中心の、商人グループ。
冒険者、精霊に次ぐ、ファミリーの三つ目のグループだ。
そこをちらっと見てから、再び俺の方をむいて。
「ねえおじさん、せっかくだからもっと試練あげるってのはどう?」
「もっと試練? カーボンにか?」
「そっ、この中で一人だけ指輪もらえてないの。あ、ミーケちゃんとケルベロスちゃんは無しね。女の子の中で一人だけ、って」
ガタッ!
物音がして、振り向く。
それまで座って物陰からこっちを見ていたカーボンが、目を血走らせて身を乗り出した。
「ほら」
「うーん。どう反応したらいいのか困るな」
「でも嬉しそうだよ」
「しかし、それが仲間はずれなのがな」
「何言ってんのおじさん、プルンブムと同じじゃん。あっちも見方を変えたら一人だけ屋敷に入れてもらえない仲間はずれだよ」
「……なるほど、もっともだな」
そうなると、むしろ積極的にカーボンの願いに応えてやるべきかもな。
……アブノーマルな要求に応えるのは、それはそれでどうかっていう気もするが。
「あっ、別にこの指輪じゃなくてもいいよ」
「え?」
「ほら、何となくでグループ分かれてるし、精霊グループの指輪、商人グループの指輪って分けていいと思うよ。アウルムちゃん達はオモチャっぽいので、エルザにはダイヤモンドな婚約指輪っぽいので」
「なるほど」
さくらの気遣いがなんとなくわかった気がする。
彼女達がつけてる指輪は、時価で3千万ピロ近くする。
カーボンに応えるためなら、全員がそんなに高価なものじゃなくてもいい、という事だろう。
「それでいいよね」
「ああ、そういうのなら今の残金で買える」
「だって。エルザさん、手配お願い。アウルムちゃん達はオモチャの指輪、エルザさんたちは婚約指輪ね」
「あっ……えっと……えっと……」
「よかったじゃない」
戸惑うエルザ、その隣でいつもの感じで、からかいながら「うりうり」と肘で親友をつっつくイーナ。
どういうことだ? って考え出した瞬間。
「わ、わかりました。すぐに用意します」
「悪いな、頼むよ」
「はい」
それで指輪の話は一段落ついた。
カーボンがますます興奮してハアハアしてるのが苦笑い物だったが、喜んでいる証拠なので良しとした。
「さくらちゃん……ありがとう」
「どういたしまして♪」