488.いってらっしゃいの……
「リペティション」
究極周回魔法を唱えて、モンスターを一撃で倒す。
指輪がドロップされた。
それを拾い上げて、ポケットの中の指輪を取り出す。
これで……人数分に足りた。
集中的に稼いで、エルザとイーナに仕入れてもらった石と交換して、それをダンジョンでドロップアイテムに変える。
大分時間はかかってしまったけど。
エミリー。
セレスト。
アリス。
イヴ。
さくら。
冒険者組の仲間の分がこれで揃った。
俺は指輪を再びポケットにしまって、転送ゲートでバナジウムダンジョンに戻る。
窓からの疑似景色、そして壁に掛けられた時計を順にみる。
まだ日は高い、みんなはまだ戻ってきてないだろうな――。
「お帰りなさいなのです」
スリッパをパタパタならしながら、エミリーがかけてきた。
「ただいま。出かけてなかったのか?」
「はいです。ヨーダさんを待ってたです」
「俺を?」
「みんなもいるです」
みんな? と首をかしげていると、エミリーがニコッとして手を取ってきて、俺を引っ張って歩き出した。
不思議がりつつもついて行くと、サロンに連れてこられた。
「みんな……どうしたんだ?」
そこにセレスト、アリス、イヴ、そしてさくらの四人が待っていた。
何で、と聞いてはみたが、すぐに理由が分かった。
「待ってたのか」
「ええ。エルザ達からリョータさんが石を引き取ったって連絡を受けて。リョータさんの事だから、すぐに指輪に変えてしまうだろうって思って」
「それでみんな待ってたんだ」
「で、この時間に戻ってきたって事は――もう指輪にしたの?」
仲間になって日が浅いのにもかかわらず、さくらは「この時間に」って聞いてきた。
かつてエミリーとした約束で、できるだけ9時5時を仕事タイムにして、できるだけ残業しないで、夜は仲間のみんなでサロンに集まる様にした。
さくらはこのやり方しか知らないから、ますます「この時間に」って思うんだろう。
俺はにこりと微笑んで、グランドイーターのポケットから指輪を取り出した。
そこには、さっきドロップさせたばかりの、人数分の指輪があった。
「正解、この通りだ」
「壮観ね、そうやって並べてると」
セレストがいい、みんなが指輪をじっと見つめた。
「さて、これをみんなに――」
「ねえおじさん。せっかくだから、おじさんがみんなにつけてよ」
「え? つけてって、指輪をか?」
「うん」
「そりゃいいけど……なんで?」
「さあ、なんでだろうね」
ニヤニヤするさくら。
他のみんなを見ると、何故か顔を赤くしたり、もじもじしたりしている。
イヴだけが変わらない感じだ。
まあ、それは別にいいけど。
俺はまず、エミリーの手を取った。
「はいエミリー。いつもありがとう」
「こちらこそなのです」
そしてセレスト。
「セレストが一番この指輪を活用できるな。専用のを用意するの遅くなってごめんな」
「ううん、ありがとう」
その次にアリス。
「サイズはあうかな」
「ぴったりだよ。ありがとリョータ」
イヴ。
「はいイヴも。ニンジンは後でな」
「ウサギの台詞をとらない、低レベルのくせに生意気」
そして。
「はい、さくらも。ついでにこれも」
「これは……石?」
「アブソリュートロックの石だ。一応な」
「マメだねえ。だからなんだろうね」
一通りみんなに指輪を渡して、つけてあげた。
これで良し。
これでみんなはもっと強くなる。
もっと楽に、安全に戦える。
一通り指輪を配って、俺はほっとして、体から力がぬけた。
「それじゃ今度はこっちから」
「へ?」
「エミリー、おじさんに」
「はいです」
エミリーは俺に向かってきて、すぅ、と手の平を上にして差し出した。
そこにあったのは――指輪。
俺が用意したのと、まったく同じ指輪だ。
「こ、これは?」
「みんなでお金を出し合ったのよ」
「ちゃんと五等分したよ」
「ニンジン一ヶ月分だった」
「多い! ――ってよく考えたらすくないじゃんウサギ」
エミリーのそばに集まってきた四人の仲間達。
「みんなで……これを?」
「お返しなのです」
「……」
驚いた。
お返しをされるとは、まったく思ってもみなかった。
だが……。
「嬉しいよ。ありがとうみんな」
俺は指輪を受け取って、大事に両手で包み込んだ。
みんながそれぞれ指輪をつけた。
全員が指に同じ指輪。
なんとなく絆が更に深まったような気がした。
「せっかくだし、まだ日が高いから。リョータさんにクイックシルバーかけてもらって、お仕事に戻りましょうか」
「はいです」
「さんせー」
仲間達はセレストの提案に賛成した。
イヴでさえも、静かにうなずいた。
「よし、じゃあ掛けるよ」
俺はそう言って、みんなにクイックシルバーをかけていった。
指輪で増幅して、効果が大幅に上がったクイックシルバー。
これでみんな、二段階は強くなるはずだ。
それをさくらがしばし見つめたあと。
「ねえ、今思ったんだけど。これって毎朝やるんだよね」
「ああ、この指輪もある事だし。これからはますます、毎朝出かける前にやろうと思う――それがなにか?」
「指輪で毎朝出かけるまえ、か」
さくらはニヒヒ、って感じで悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「まるで行ってらっしゃいのキスじゃん」
「んな!」
さくらのからかいに、俺達はそろって顔を赤くしてしまったのだった。