485.天然
魔法カートがドロップでいっぱいになった。
ボタンを押して、マスターロックのあるエルザたちのところに転送する。
今日は朝からダンジョン入りして、フル回転で稼ぎまくった。
これでどれくらいかな……いやどのみちまだまだだ。
俺は銃をしっかり握り直して、再びモンスターを探そうと歩き出した――
「あーいたいた。へえ、本当にテルルにいるんだおじさん」
「さくら」
道の先、ダンジョンの曲がり角からさくらが姿を現わした。
彼女は持ち前のフレンドリーな感じで近づいてくる。
屈託のない笑顔が魅力的なさくらは、現われて歩いてくるだけでまわりの冒険者の注目を集めた。
「あの子可愛いな」
「どっかのファミリーにはいってるのか?」
「おいおい、またサトウか?」
まわりから九割さくらに好意的な声、一割がこっちにやっかみの視線を向けてきた。
まあ、可愛いし明るいし、屈託ないから人気なのはわかる――
「なにぼうっとしてんのおじさん」
「え? ああいや、なんでもない。それよりどうしたんだ? 俺を探してたみたいだけど」
「うん、エルザさんにここだって聞いてきた」
「なるほど」
ファミリーの中でも、エルザとイーナが一番俺の居場所を把握している。
なぜなら、ダンジョンで稼いでるときは、魔法カートでドロップアイテムを順次送っている。
つまり、ドロップアイテムを見れば、直前にどのダンジョンのどの階層にいたのかがはっきりと分かる。
「おじさんすごいじゃん、もう百万稼いだんだね。確かピロと円は一対一だっけ? そしたらもう百万円だよ」
「そうか、まだそんなものか」
「まだって。まだ昼にもなってないからすごいじゃん」
「でも亀裂の石を買うにはね。まだまだ稼がないと。ああ、さくらにもちゃんと渡すから安心して」
クイックシルバーのバフは、かけられた側が指輪をつけてると上がる。
効率でいえば最初に想像したよりだいぶ悪い。
何せ俺がつけてればいいっておもってたのが、みんながつけてないといけないって事になった。
でも、それでも。
アブソリュートロックの石の時の様に、みんなに一つずつ渡すべきアイテムだから、俺は頑張って揃えることにした。
「……おじさんいつもそうなの?」
「いつもって?」
「こういうこと、いつもしてるのかなってこと」
「ああ」
俺は深く頷いた。
アブソリュートロックの石を始めとする前例が山のようにあるから。
「なーんだ、やっぱりチーレムだったんじゃん」
「へ?」
「みんなドキドキのそわそわしてたよ。おじさんが指輪準備するからって」
「なんで?」
「一晩経ったからそろそろ気づこうよ。女の子に指輪だよ」
「…………ええ!?」
「呆れた、本当に気づいてなかったんだおじさん」
「いやいやいや、そういう意味の指輪じゃないだろ? 装備アイテムだし、神効果だし」
「でも、女の子に、指輪、だよ」
「……うっ」
さくらははっきりとその二単語を区切って、強調して突きつけてきた。
気づかされると、ものすごく大変な事をしてるって気持ちになってきた。
「どうする、やめる? みんなも意識してるし、今なら――」
「いや、このまま用意する」
さくらに言われたことは確かに予想外でグサッときたが、それでもやることは変わらない。
「みんな大事な仲間なんだ。そしてこれはかなり重要度の高いアイテム。これを使っての戦力アップ幅は大きい、つまり安全をより確保できる」
言いながら、その通りだと自分で頷く。
能力が全部二段階アップするんだ。
防御面はもちろん、攻撃面も先手取って倒せるのなら結果的に安全になる。
知らなかったならいざ知らず、知ったあとで揃えないという選択肢はもはやない。
「だから予定通り用意する。さくらにいわれたそれは後でフォローする。必要ならなんでもして」
「……そっか。わかった。ごめんね変なこと言って」
「いや、こっちこそありがとう。気づかせてくれて助かった」
「いーよ、じゃねー」
さくらは手を振って、立ち去った。
☆
「おじさんってそういうキャラだったんだ……」
亮太の元から立ち去って、テルルの中をスタスタと引き返していくさくら。
ファミリー入り――転移してきてからまだ日が浅いから、亮太のことは完全に理解しているわけじゃない。
今のやりとりで、少しだけ深く理解した。
あれだけの人たちが――冒険者達、商人達、精霊達。
それらが彼の元に集まってる理由が分かってきたような気がした。
「チートってだけじゃないのか、すごいなぁ……」
感心しつつ、彼女は飛んできた転送ゲートを潜って、屋敷に戻る。
「あれ? 今日は早いですね、さくらさん」
転送部屋を出ると、ユキと出くわした。
冒険者でも商人でも精霊でもない。
日中は特にやることが無く、屋敷にいるユキ。
そのユキは、しばらくじっとさくらの顔を見つめた後。
「どうしたのですか? 顔、赤いですよ」
「ふぇっ!」
さくらは自分の顔を慌てて触った。
顔が熱い、それだけではなく、耳の付け根まで熱い。
「な、何でも無い――って、ごまかしちゃったらもっとそれっぽいじゃん!」
とっさにごまかしたこと、その意味。
さくらはより慌ててしまうのだった。
おかげさまで目標の20万ポイントに到達しました、ありがとうございます!
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