484.キミの為の指輪
バナジウムダンジョン、テスト部屋の中。
冒険者組の仲間達を全員集めた。
エミリー、セレスト、アリス、イヴ、そしてさくら。
みんなを一通り集めて、まずはセレストの現ステータスをチェックした。
ポータブルナウボードを使って、ステータスを出す。
―――1/2―――
レベル:54/54
HP D
MP A
力 E
体力 E
知性 A
精神 A
速さ E
器用 A
運 C
―――――――――
―――2/2―――
植物 F
動物 F
鉱物 F
魔法 E
特質 F
―――――――――
セレストのステータスを見て、俺は「よし」と頷いた。
「何が良しなの?」
「今回のテストには、セレストの能力が一番合ってるから。それを再確認してさ」
「私のが一番合っている? クイックシルバーのチェックよね……あっ」
そういうことか、って顔をするセレスト。
俺が持っている指輪の内、最初にドロップした分裂などの「特性」的な指輪の方をみた。
既に指輪によるクイックシルバーの変化をテストするって伝えてるので、それで分かったようだ。
「そっか、下がることもあるんだ」
「うん。セレストはEが多いから、上がるの下がるのを両方チェック出来るんだ」
「なるほどなのです、私はAとかFとかが多いのです」
「あたしはそもそもひっくいしね」
エミリーとアリスが納得した。
本人が納得した通り、二人のステータスは今回のチェックには向かない。
エミリーは生粋のパワーファイターで得意分野がAで他はFという尖りっぷり、アリスはそもそも最高レベルが2で大半がFだ。
「私も一緒ね」
レベルこそ100を大幅に超えているけど、成長率が低くて、能力が抜群に低いさくらも同じように納得した。
ちなみにイヴは来はしたが、興味なさげに大あくびしている。
「それじゃ、いくぞ」
「ええ、いつでもいいわ」
セレストとうなずき合って、俺はまず、「特性」の指輪をはめて、クイックシルバーを唱えた。
そして、ポータブルナウボード。
―――1/2―――
レベル:54/54
HP D
MP A
力 E
体力 E
知性 A
精神 A
速さ D(+1)
器用 A
運 C
―――――――――
―――2/2―――
植物 F
動物 F
鉱物 F
魔法 E
特質 F
―――――――――
「あれ?」
「なにも起きないです」
「リョータ、もっとやってみて」
「ああ」
深く頷いて、もう一度クイックシルバーを唱える。
魔法の光でしっかりと効いたのを確認してからの、ポータブルナウボード。
―――1/2―――
レベル:54/54
HP D
MP A(+1)
力 E
体力 E
知性 A
精神 A
速さ D(+1)
器用 A
運 C
―――――――――
―――2/2―――
植物 F
動物 F
鉱物 F
魔法 F
特質 F
―――――――――
また一つだけ上がった。
いつものクイックシルバーだった。
「効果が無いってことなのかしら」
「こっちのもやってみる」
「特性」の指輪をはずして、今度は「強化」の指輪をつける。
そして、クイックシルバー。
無限回復弾をセットして、
自分に撃ち続けながら、さらにクイックシルバーをセレストにかける。
一通りかけきってから、またポータブルナウボード。
―――1/2―――
レベル:54/54
HP C(+1)
MP A(+1)
力 D(+1)
体力 D(+1)
知性 A(+1)
精神 A(+1)
速さ D(+1)
器用 A(+1)
運 B(+1)
―――――――――
―――2/2―――
植物 F
動物 F
鉱物 F
魔法 E
特質 F
―――――――――
「全くのいつも通りね」
「効果が無かったって事か。しかし、ネプチューンには効いたんだが」
「そうなの?」
「ああ。そうだってはっきり言ってた。ネプチューンはともかく、ランとリルのあの表情は本物だ」
俺に関係なく、好きなネプチューンの力になれた、という満足しきった表情だ。
あれは本物だ、嘘ではあり得ない。
「ねえリョータ、他になにか違ったところはなかった? 指輪の付け方とか」
アリスに言われて、あの時みた三人の姿を思い出す。
「うーん……違ったって言っても、三人とも薬指につけていたから、違うと言えば違うんだよな」
薬指の指輪は男女ペアでつけるものだが、ネプチューンら三人は「H2O」って事もあって三人とも薬指につけている。
「……三人とも?」
一瞬そこが引っかかった。
もっと言えば、ネプチューンもつけているって事を思い出した。
「まさか……セレスト」
「なに?」
「これをつけてくれ。それでポータブルナウボードを」
「……分かったわ」
神妙な顔で頷き、俺が渡した「特性」の指輪をつけるセレスト。
そしてまたまたポータブルナウボードを使うと。
―――1/2―――
レベル:54/54
HP B(+2)
MP A(+2)
力 C(+2)
体力 C(+2)
知性 A(+2)
精神 A(+2)
速さ C(+2)
器用 A(+2)
運 A(+2)
―――――――――
―――2/2―――
植物 F(-1)
動物 F(-1)
鉱物 F(-1)
魔法 F(-1)
特質 F(-1)
―――――――――
「「おおっ!?」」
全員が一斉に声を漏らす。
セレストの能力は大きく変わっていた。
基礎能力のアップが倍になって、さっきまではなにも変動がなかったドロップに全部-1がついた。
指輪の効果がはっきりと出た。
「アリス、頼む」
「うん、まずは……」
もう一つの特性指輪をつけて、ポータブルナウボード。
―――1/2―――
レベル:2/2
HP F
MP D
力 F
体力 F
知性 E
精神 E
速さ F
器用 F
運 D
―――――――――
―――2/2―――
植物 F
動物 F
鉱物 F
魔法 F
特質 E
―――――――――
「オッケー」
「じゃあ……クイックシルバー」
―――1/2―――
レベル:2/2
HP D(+2)
MP D
力 F
体力 F
知性 E
精神 E
速さ F
器用 F
運 D
―――――――――
―――2/2―――
植物 F
動物 F
鉱物 F(-1)
魔法 F
特質 E
―――――――――
「おお、来たね」
「こう来たか。はずしてみて」
「オッケー」
指示通りにはずして、またポータブルナウボード。
―――1/2―――
レベル:2/2
HP F
MP D
力 F
体力 F
知性 E
精神 E
速さ F
器用 F
運 D
―――――――――
―――2/2―――
植物 F
動物 F
鉱物 F
魔法 F
特質 E
―――――――――
能力が元に戻っていた。
「つまり、バフはかけられる側がつけてなきゃいけないのか」
「そういうことのようね」
俺は考えた。
そういうことなら、また少し話が変わる。
全員に指輪を最低一つずつ与えたい。
アブソリュートロックの石と同じように、一人に一つは。
それだと結構かかる。
今の亀裂の石の相場だと、最大で一つにつき三ヶ月分くらいの稼ぎが必要かもしれない。
それでも、これは使える。
みんなに与えたかった。
「みんな、待っててくれ。みんなの分の指輪を稼いでくる」
そうと決まれば、俺はテスト部屋を飛び出して、ダンジョンに向かう。
「エミリーどうしたの? 顔赤いよ」
「な、何でも無いです。ちょっと思い出しただけなのです」
「もしかして、前にもおじさんの天然にやられたとか? お前だけの指輪、とかなんとかいっちゃって」
「そ、そんな事ないです!」
俺がいなくなった後のテスト部屋でエミリーが盛大にからかわれたのを、俺は知るよしはなかった。