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483.翼がふえたエンジェル

「はい、これ」


 シクロの街中、行きつけの酒場ビラディエーチ。

 いろんなビールを専門で出している、シクロで一番お気に入りの店だ。


 今日は「燻製ビール」というのが入荷したから、面白がって注文してみたのだが、確かに普通のビールの中に、燻製したようなチップの香りがする。


 くせになる味だ。

 いつも飲んでるコーヒーのビールもいいけど、こっちの方が好きになりそうな気がする。


「この店っていつもおもしろい物を出すよね」


 そう話しながら、鼻の下に泡をつけているのはネプチューンだ。

 彼が頼んだのは「イチゴのビール」。


 オレンジとかみかんとかのビールなら飲んだことはある、ちょっと珍しいところで昔南国に旅行に行ったとき、マンゴーやパイナップルのビールを飲んだことがある。


 それらに比べると、イチゴのビールはなんというか……想像がつかない。


 イチゴの「ストロベリー」っていう言葉についたイメージとかもあるし、何より俺はショートケーキのイチゴが大好きだから。


 イチゴのビール、と言われて「なんかちょっと違うな」って思ってしまう。


「美味しいのか、それ」

「うん。一口どう?」

「ダメ!」

「これは私達の物」


 両横に座っている、ランとリルが割って入った。

 特にリルの反応が強くて、ネプチューンが差し出したビールのグラスをひったくって、ごくごくと天井を仰ぎながらの一気のみをした。


「おー、いい飲みっぷりだね。さすがリル」

「ふん、これくらいどうって事ないわよ」

「ねえ、次は何を注文する?」

「そうだね、トマトのビールとサツマイモのビール、どっちがいい?」

「両方」

「どっちも」


 目の前でいちゃつかれた。

 最近分かってきたことだけど、ネプチューンは時々、ランとリルに二択を投げかける。


 内容は多岐多様にわたる。


 もし飼うなら犬と猫のどっち? みたいな変哲のないものから、目玉焼きにかけるのは醤油なのかソースなのかという戦争レベルの質問まで。


 彼は、暇さえあれば二人に二択を投げている。


 聞けば、昔からそうしているらしいが、最近になってよく見かける様になった。


 そしてその度に、ランとリルは決まって「両方」「どっちも」と返す。


「……一種の儀式だな」

「うん? 今なんか言ったかい?」

「いや、このビールは美味いなって」

「なるほど。そうだ、キミに頼まれていた物、手に入ったよ」


 ネプチューンはそう言って、懐から何かを取り出して、テーブルの上に置いた。


 亀裂の石。


 それは渦中の超貴重アイテム、ここは人が大勢集まっている酒場。


 なのにもかかわらず、ネプチューンは事もなげに取りだして、テーブルの上に置いた。


「おおっぴらに出すんだな」

「隠すほどの事じゃないからね」

「そうか……ありがとう、助かった」

「それはこっちの台詞。キミのおかげで、自分達の分は安く手に入った」


 ネプチューンはにやりと口角を上げた。

 よく見ると、ランとリルの手に指輪がしてあった。


 例の攻撃力を上げる指輪で、ランとリル、二人の薬指に同じものがはめられている。


「早いな、もう手に入れたのか」

「うん。キミが道を切り拓いてくれたからね。二番手としては、これでも遅いくらいさ」


 ネプチューンは事もなげに言い放った。


 亀裂の石。


 エルザ達が流した(事実)のおかげで、一時は青天井に見えた値上がりは完全にストップした。


 それ所か、ピーク時の半分くらいの値段まで下がった――といっても、まだ2000~3000万ピロはするんだが。


 その値段ならばと手に入れようとしたが、俺が動くとエルザ達の策が水泡に帰すことになる。


 だからネプチューンに頼んだ。


 本人達はリョータ・ファミリーの傘下に入っていると公言しているが、俺とは特に行動を一緒にするでもなく、何よりランとリルがそれを不機嫌そうに否定したりはぐらかしたりしているので、俺とは別のグループ、と見なす人も多い。


 同じ傘下明言でも、クリフやマーガレットじゃダメだ。


「……あれ?」

「どうしたの?」

「その二人……指輪の意味はある?」


 ランとリルは、それぞれゴッドプレスとデビルカースという魔法でネプチューンを強化するスタイル。

 それでこの指輪は意味があるのか……って思ったが。


「あったよ」


 ネプチューンはにこりと微笑んだ。


「なあ、それの効果はリアルタイム? それとも発動時だけ?」

「え? どうだったかな……」

「わるい、ちょっとやること思いだした。金は振り込んでおく」


 俺は残ったビールを一気飲みして、立ち上がって店を出た。


 クイックシルバー。


 最近はみんな慣れてきて、あまり使わなくなった魔法の事を思い出した。

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